ハロウィン
今日は10月31日。要するにハロウィン。言うまでもなくハロウィン。 毎年毎年、日付を把握しない悪癖のせいでお菓子の用意が間に合わず、『悪戯』と称していろいろとされている俺としては、あまり良い思い出が無い。 んで、今年は珍しく覚えていたからとりあえずお菓子は買ってきた。が、悪戯を回避するだけではつまらないと思う。
そんなわけで、とりあえず。 「慧っさーん! トリックオアトリート!」 「ハッピーハロウィン!」 「痛い!」 例年どおり自宅に突撃してきた澪に、まずは日ごろの恨みも込めて、と、チョコレートと飴玉を節分よろしく投げ付けてみた。小さく悲鳴を上げた恋人は、じとりと恨めしげな視線を寄越す。 「なにすんの慧さん…」 「日ごろの恨み!」 「うっわ凄い目が生き生きしてる! めっずらし! そして悲っし!!」 鋭いようなそうでないようなツッコミも頂戴したところで、さて次はどうしようかと考える。 ……ここはアレか、俺も言っとくか。 「灰谷、灰谷。」 「なーに…、」 投げ付けたお菓子を拾い集めていた澪の意識をこちらへ向け、えーと、と口を開く。 「とりっくおあとりーと、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ?」 「っ…、慧さんあざとい!!」 「はぁ!?」 なんだか知らんがキレられた。えぇー。 「あざといってなんだよ! 俺のどこが浅はかで小賢しいんだよ!」 「わぁ、辞書そのままな切り返し! どちらかと言えば抜目ないとかあくどい的な意味合いかな!」 「どっちにしろ意味わかんねーよ!」 「そこが可愛いんだよ!!」 「………は?」 ものすごく真剣な顔で、コイツは何を言っているんだ。つーか噛み合ってなくね? 思わず首を傾げた俺に、尚も澪はまくし立てる。 「なんなのホント! 言い慣れてないからか知らないけどちょっと舌足らずだし、自信が無いんだか知らないけど小首傾げてるし! しかも完全に無意識無自覚とか! 可愛いんだよちくしょうめ!!」 いっぺんに言われて少し混乱した。が。 ……要するに俺が可愛いってか、そうか。 「…普段と言ってることたいして変わらねぇじゃねーかバカ澪!」 「いった!」 ついついチョップをかまして、これ以上舌戦を繰り広げてもらちがあかないのは経験から知っているから話題を戻す。 「…で、お菓子か悪戯か。」 すると澪は顔を上げてにまりと笑う。背筋をナニカが這う感覚。……いわゆる、イヤなヨカン、というヤツ。 「…お菓子は無いから、悪戯していい?」 告げられた言葉に、内心やっぱりな!と思いつつ慌てて反論する。 「っな…なんでそうなる、悪戯するのは俺だろ!」 「そうだっけ?」 けろっとしらばっくれている澪にそこはかとなく苛立って、「とにかく、悪戯は俺がすんの!」とよくわからない主張をした。 すると澪は、そっか、と、見とれるような妖しい笑顔を作って、 「じゃ、悪戯、してみてよ。」 と言った。俺はと言えば、少しだけ怯んでしまって、言葉に詰まる。その上、悪戯って、改めて考えたらあまり思い付かない。 黙り込んでしまう俺を見て、澪は楽しそうに笑い、こう言った。 「折角の恋人同士のハロウィンなんだし、そうなったら"悪戯"なんて、やっぱりソウイウコトに限るでしょ。」 にやにやと意地の悪い笑顔で告げる澪は、やっぱりやたらと楽しそうで。 「…、……じゃあ、…これで。」 「…!」 少しでも鼻を明かしてやりたくて、本当に本当に軽く、それこそ掠めるような、触れるだけのキスをした。 直ぐさま熱くなった顔を、手で覆う。素面ではこれが限界で、思考回路もぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。 またからかわれるな、と思って指の隙間から澪を覗き見てみたら、予想とは違って、なんだか、やたらと幸せそうに笑っていて、思わずきょとんとしてしまう。 「…慧さん、」 袖を引いて呼びかけられて、まだ顔は熱いけれど腕を下ろす。すると、待ってましたと言わんばかりに、今度は澪から口づけられて。 耳や首まで熱が回って固まる俺を尻目に、澪は珍しく、本当に柔らかく微笑んだ。
了
2012/10/31 ハロウィンです! 2時間かかってないやっつけ仕事でしたが楽しんでいただければ幸いです!\(^o^)/
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