「話し合おう」前編
すっ、と小さな傷が開き、ナナシ分隊長の指先から赤い血が零れた。
「ナナシさん…!?」
「問題ない。この程度すぐに塞がる」
いや、そういう問題じゃ──
そう言いかけた時。
カッ!!!
と。
ごく至近距離で。
閃光と爆発音が轟いた。
覚えのあるそれらに体が硬直する。
巨人化だ。
けれど自分じゃない。
熱気と暴風に吹き飛ばされながら、体勢を立て直してなんとか目を凝らす。
今のはまさか──
煙が晴れたそこにはやはり、巨大な姿が現れていた。
「え……えええぇ!!!?」
叫ぶ。
15メートル級だろうか。
近くに居たはずのナナシ分隊長がいない。
まさか。
「うぉおおおおおおい!まだ続けてたのエレぇ…ぇぇんじゃない!!?誰!?何!?敵!?」
音を聞きつけてやってきたのだろう。
ハンジさんが叫びながら混乱している。
巨人化したのがオレだと思ったのだろうが、生憎とこうしてここに立ち尽くしているだけだった。
「ナナシは!?どこに行ったの!?」
「た…多分ですけど…アレじゃないかと…」
「アレって──」
オレの指さした方向。
現れた巨人だ。
そちらを向いたハンジさんが、固まった。見れば、仄暗い光を宿した瞳で巨人がハンジさんを見下ろしている。
「ちょっ……無理無理無理無理!!私じゃナナシを抑えきれないって!!しかも巨人!?」
そうか…!
いくらナナシ分隊長とは言え、理性があるとは限らない…!
暴走の危険がある!
「オレが巨人になって抑えます!」
「それでエレンまで暴走しちゃったら大惨事どころじゃないよ!」
止められる。
なら、どうすれば。
未だにナナシ分隊長からの反応はない。
オレが暴走した場合はどうするのだったか。
閃きはハンジさんの方が早かった。
「リヴァイ!!リヴァァァアイ!!!」
人類最強を呼ぶハンジさんの声が、近くの森に木霊した。
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