ゼロと局長


失礼します、と一言告げて、その部屋へと足を踏み入れる。
局長室。
眼鏡を掛け、パソコンのモニタ画面を眺めていた銀白色の髪の女性が顔を上げた。


「あぁ、君か。待っていたよ」


静かな動きで手元のマウスが操作され、モニタの明度が落ちる。
此木を呼びつけた本人、禾生壌宗局長の視線が、反射の落ち着いた眼鏡の奥から、じっと此木へと注がれていた。

乾いた瞳だ、と思う。
まるでこちらに関心が無いような。
突き放すような印象を、いつも受ける。


「先日、執行官からドミネーターを向けられていたようだが」

「問題ありません」


すぐに記録は消したのだが、チェックされてしまっていたらしい。
局長の執行官の扱いは、あまり良いとは言えない。監視官が汚染される事を、良しとしない。
バイオハザードという点においては俺は心配されていないようだが。その分、こうして度々行動を監視され、呼び出されている。
監視官を監視、と考えるとなかなかに皮肉が利いている。


「そうか。……それとは別に、狡噛執行官が撃たれたようだね」

「……そちらも、問題ありません」

「常守朱監視官を、君はどう思う?」

「まだ出会ったばかりですので、何とも」


意図の読めない質問に、どう答えるべきか迷う。
何をしでかすか分からない、と正直に答えても、何故か狡噛の不利になるような気がしてならない。
だが実際、先日初めて会ったばかりだ。
この回答で問題はないだろう。

そうか、と言って禾生局長が瞳を伏せる。思案するようでもあり、何処か失望したようでもあった。
声のトーンが一定すぎる為、その機微は分かり辛い。二つの内どちらかなのだろう。


「……まぁいい。彼女も君と似たような体質だ。気に掛けてやって欲しい」

「はい」


そうして会話が締め括られる。
机上の書類へと落とされた視線がいつもの合図だ。

退室しようと背を向けかけた矢先に、此木監視官、と。
禾生局長に名を呼ばれた。


「これを」


重ねられた書類の一番上。
局長によって差し出されたその一枚を、受け取る。


「時間がある時に、読んでおいてくれたまえ」


写し出された写真が目に入る。
今日呼ばれた本題は、これだったのかもしれない。



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