犯罪係数B


『こちらハウンドfour。KTビル四階で対象を発見。どうしますー?』

『よし、そのまま目を離すな。ハウンドtwoと俺が包囲する』

『俺は?仲間外れか?』

『冗談を言っている場合か。シェパードzeroはその場で待機。対象が逃げた場合に備えろ』

『ちょっと、聞いてくださいよ。やっこさんの点取り具合だと人質の子が限界ぽいっすよ?俺一人で確保、いっちゃいます?』

『よし。しくじるなよ』

『了解』


通信が切れると同時に、駆け出す。
ビルは目の前。
逃亡ルートを防ぐとすれば……あの位置か。
まさか縢を振り切った挙げ句窓から飛び降りる、なんて真似はしないだろうが、追い詰められた人間は何をするかわからない。
大人しくセラピーを受けておけばここまでの事にはならなかっただろうに……
いや、一生囚われの身となるよりは、まだマシなのだろうか?


「価値観の違いだな……」


せめて他人を巻き込むな、とは言ってやりたい。
と思った所で、ガラスの割れる音が鳴り響いた。上か!!
まさかの飛び降りだ。たが、半ばにある通路で落下が止まっている。
窓から縢の姿が見えた。ドミネーターはリーサルモード。エリミネーターへと変形している。

この位置からでは、狡噛達の方が先に大蔵へとたどり着きそうだ。よりにもよって、なぜそちらへ。
初仕事がリーサルでは、あの監視官も長くは持たないかもしれない。



『ハンウドthree、執行完了』

「あーあー……」


狡噛からの通信と、女の狂ったような悲鳴が聞こえたのはほぼ同時だった。

その光景を視界に入れて、嘆息する。
女が階段から転がり落ち、征陸さんは何故か常守監視官に抱き付かれている。
いや、何故か、ではないか。

エリミネーターによって大蔵が弾け飛び、女が発狂。
それで気絶でもしてくれれば事は簡単だったのだろうが、そうはならなかったらしい。


「彼女は混乱してるだけです!そんな乱暴な事しなくても!!」

「いいか!?ドミネーターはシビュラの目だ!この街のシステムそのものだ!彼女を脅威と判断したんだ!その意味を考えろ!」 

「だからって何もしてない被害者を撃つなんて、そんなの納得できません!!」

「納得するしないの問題じゃ──」


急いで距離を詰め、征陸さんの肩を叩く。
荒らげかけた言葉を飲み込み、驚いた様子で振り返る征陸さんと、未だ強く征陸さんを拘束している常守監視官に、指を指し示す。


「狡噛が追ってるよ」

「!!!」


途端に、弾かれたように常守監視官が駆け出す。転がるように階段を駆け下り、狡噛の後を追っていった。もうこちらへの意識はない。


「おいおい、リョウ。どうするつもりだ?」

「あとは狡噛に任せる」


俺の言葉に、征陸さんが目を見開く。
本気か?とでも言いたげだ。
だが、どちらにしろもう手遅れだと言えた。

ここでただ感情に身を任せて征陸さんを制止しているよりは、結末を最後まで見届けていた方がいい。
でなければ、また同じ事を繰り返す。
次へ進めなくなってしまう。


「宜野座達ももう着いているだろう。問題ない」

「そうは言ってもなぁ」

「狡噛なら、抱き付かれたくらいじゃビクともしないよ」

「問題はそこじゃ……」

「やめてええええぇぇぇえ!!!!」

「!?」

「な……」


下から聞こえた、常守監視官の叫び。
その後の音は……ドミネーターだ。
まさか。
撃ったのか?
狡噛を?


「こりゃ……とんでもない新人が来ちまったもんだな」


とんでもない所じゃない。

そこまでは想定出来なかった。
計算が外れた。
構築が崩れた。

──常守朱。
新たな観察対象の名前を、胸に刻み付ける。

あとは……狡噛に何と謝ればいいだろうか?
俺がアッサリと売った流れになってしまっている。
とりあえず、目が覚めた後に弁明くらいはしておこう。

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