犯罪係数@


エンジンの駆動音と皆の呼吸。
他に音のない空間に、プラスされたのは車体を叩く雨音だ。
朝から降り続くそれは止まる気配を見せず、むしろ段々と強くなってきている。
着任早々の事件にこの天気。
今日から入る新人監視官はあまりツキがないのかもしれない。


「なぁ、なんでアンタも護送車に乗ってるんだ?」


向かいに座っていた狡噛が、不可解そうにそう切り出してきた。
乗り込んできた段階で俺の存在には気付いていただろうに、現場に着く直前にようやく問い掛けられたのだ。
今更だな、と征陸さんは笑っている。


「別の車で向かうより効率的だろう?」

「寝過ごしたんだよ」


縢が口を挟んでくる。
両腕を頭の後ろで組み、車体に背をもたれながら気楽な調子でバラされた。
狡噛が呆れたように溜め息を吐いている。


「今日から新人が入ってくるってのに……」

「彼女より先に到着すれば問題ない」

「……着けるといいですね」


六合塚はどこか励ますような口調だ。
いや、哀れまれているのか?

初日から遅刻してくるような先輩は敬われないかもしれない。
ただ、一係には宜野座がいる。
彼に任せれば大丈夫だろう。
狡噛にはそうしろとも言われていたしな。

そうこうしている間に、タイヤがカーブを描き停止した。窓は無いため、振動でそれを察する。
現場に到着したようだ。

ロックが解除され、外の明かりが差し込んでくる。


「──同じ人間と思うな。奴等はサイコパスの犯罪係数が規定値を越えた人格破綻者だ。本来ならば潜在犯として隔離されるべき所を、ただ一つ許可された社会活動として同じ犯罪者を狩りたてる役目を与えられた……奴等は猟犬。獣を狩るための獣だ。それが執行官。君が預かる部下達だ」

「おいリョウちゃん、部下って言われてるぞ」


到着するなり聞こえてきた、宜野座の長々とした説明に縢が振り返ってくる。
ツッコミ所はそこなのか。

口を挟むタイミングを掴めずに最後まで言わせてしまったのがいけなかったのかもしれない。


「ほれ見ろ、俺達と来るからだ」

「つーか出遅れたんだろ」

「本来なら宜野座監視官と共に現場で待っている筈でしたからね」


他の三人も口々にそんな事を言ってくる。
俺じゃなかったら泣いてるぞ。
宜野座からは鋭い視線が飛んできていた。
遅れた上にこの登場の仕方はまずかったかもしれない。段取りを壊される事を嫌う傾向にあるのは昔からだ。


「お!そっちのカワイ子ちゃんが噂の新入りさんすか?ギノさん」


その宜野座の前に立つ少女を見て、縢が目を輝かせていた。


「彼女の紹介の前に、まずお前からだ。此木」

「此木監視官……でしょうか?」

「あぁ。此木諒介だ。よろしく頼む」

「はい!よろしくお願いします!」


勢い良く頭を下げられた。
どうして護送車から出てきたのか聞かれなかったのは助かった。
ただ単に、まだ理解が追い付いていないだけかもしれないが。
俺の紹介が終わった所で、宜野座が今度は少女に視線を移す。


「彼女は常守朱監視官だ。今日から貴様らにとって三人目の飼い主になる」

「よろしくお願いします!」


同じように頭を下げる常守監視官。
監視官になったらからにはもう成人している。
少女というのは間違いだっただろうか?
まぁどうでもいい。
良い感じに沈黙が降りた所で、宜野座が本題を切り出した。

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