誰も知らないあなたの仮面A


第三会議室。
呼び出したのは六合塚と征陸さんの二人だ。休日を潰してしまうのは申し訳ないが、俺一人の手では追えない案件だった。あの二人に手伝って貰えるのならば、心強い。
狡噛にも伝えるべき……なのだろうが、どう考えても、無理だろう。絶対に暴走する。
禾生局長も、これまでと同じく秘密裏に処理するつもりなのだろう。
喋るな、とも言われていないが。
とにかくまずは本人を見付け出す必要がある。それも、一刻も早く。


「よぉ。おはよう、リョウ」

「おはようございます。休日に呼び出してしまって、すみません」

「なに、気にするな。お前さんからの連絡なんて珍しいものに比べたら、ただの休日なんぞつまらんもんだ」


元が警察官という事もあり、征陸さんの到着は早かった。軽い調子で挨拶を交わし、征陸さんは笑みを浮かべる。
確かに珍しい事ではあった。出来れば、もっと楽しい話題で呼び出せたなら良かったのだが。


「呼んだのは俺だけか?」

「あとは六合塚です」

「……どういう人選だ?」

「狡噛と縢は突っ走りそうで怖かったので」

「つまり頼れるのは俺たち執行官だけだって事か」


難しい顔をして、ふむ、と頷く征陸さん。まだ何も話してはいないのだが、さすがに鋭い。
常守なら大丈夫なのかもしれない。だが、色相は何によって濁るか解らない。相手が相手だ。狡噛のように深淵を覗いてしまえばどう転がるか予測がつかない。
征陸さんと六合塚なら、無理に接近しすぎず出来る範囲で対処してくれるだろう。
とにかく、近付くのはまずい。話をするのも駄目だ。理想を言えばこちらの事はギリギリまで感付かれずに一撃で意識を刈り取りたい。
ドミネーターなしでどこまでやれるか、だな。

……そういえば、六合塚には本当に申し訳ない事をしてしまった。あのタイミングで余計な事を聞いてしまった。
彼女がこちらに来るにはもう少しだけ時間がかかるだろう。


「リョウ、前に、頼むとすれば俺とお嬢ちゃんだと言っていなかったか?」

「それとはまた別件です」

「おいおい…どれだけ抱えれば気が済むんだ」


征陸さんが呆れたように俺を見ている。
いや、呆れと…心配だろうか。
その眼差しに申し訳ない気持ちが沸き起こるが、どうしようもなかった
今回は完全に局長から押し付けられたものだ。しかもこちらの方がとびきり危険ときている。


「今回は俺以外に適任がいないので、仕方がないんですよ」

「俺たちは手伝いをすりゃいいんだな?」

「はい。お願いします」


禾生局長から手渡された書類に記されていた名は──槙島 聖護。
経歴不明。200万人に1人と言われる免罪体質者。
そして、3年前に起きた連続猟奇殺人──標本事件の黒幕と見られる人物だ。

あの事件の事は俺も覚えている。執行官の一人が殉職し、監視官の一人が犯罪係数を上昇させて執行官へ降格。
犯人は依然行方不明、とされている。

狡噛が追い続けている相手だ。
局長室から出た直後に宜野座と会ってしまった時は焦ったが、なんとか誤魔化せたと思う。
あの二人には、出来る限り、知られたくない。


←prev next→
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -