飼育の作法K


ドローンは二体。一体には金原が乗っている。殺意を剥き出しに、雄叫びを上げながら狡噛達を追っている。
ここで狡噛を消せたとして、その後どう誤魔化すつもりなのだろうか。厚生省所属の人間を害しておいて、事故だとは最早断定されないだろう。
どちらにしろ金原は詰んでいる。

階下へ繋がる扉へと駆け込んだ二人を追おうとして、ドローンがその幅に阻まれている。間一髪で迫ったアームをかわし、階段を駆け下りていったのだろう狡噛と常守を金原はどう追うのか。
身を隠しつつ窺っていると、どうやらドローンで床をぶち抜くつもりのようだった。足元に円形状に切り込みを入れている。
最悪、壁を破壊されてしまえば先回られるより先に飛び降りて二人がドミネーターを手にするまでどうにか時間を稼ぐしかないと思っていたのだが、一階ずつ降りてくれるのであればこちらとしては助かる展開だった。
この速度であれば、ケーブルの届くエレベーターホールまで、ギリギリで辿り着けるラインだろう。

金原の後を追い、開いた穴へと飛び込む。
熱を持った切断面には触れぬよう飛び降り、回転を織り混ぜながら着地の衝撃を和らげる。分かっていたとは言え結構な高さだ。
幾度かそれを繰り返し、さすがに身体が痛みを訴えだした所で目的の場所へと到達したのが階下に見えた。

狡噛と常守。二人の姿が見える。一階だ。ドミネーターはまだその手元には無い。少し早すぎたようだ。
手にしてからも、認証、解析と金原を撃つ為に数秒時間のロスがある。ドローン相手に正面で丸腰になるのは得策ではない。


「……やるか」


今にして思えば常守を巻き込む意味はなかったのかもしれない。俺がこうして後を追っている以上、執行官の監視は不要だっただろう。無駄に走らせただけだったような……いや、今はそんな事を考えている場合ではなかった。
金原の意識は完全に狡噛と常守へと向いていた。背後、そして頭上へは一切注意を払っていない。


「貴様らぁぁぁあ!!!!」


飛びかかるには、絶好の位置取りだった。叫び、今にも狡噛達へ襲いかかろうとしている金原の頭上目掛けて。俺は足を踏み出した。


「此木さん!!?」

「狡噛!!!」

「うらあああああ!!!」


驚く常守の声、六合塚の狡噛への呼び掛け、縢の雄叫びが重なり合う。
ドミネーターを投げ渡す六合塚と、無人のドローンへと突っ込む縢を視界の端で捉えながら、俺は金原へとダイブしていた。首、そして腕を捕らえ、そのまま地面へと引き摺り落とす。衝撃はダイレクトに俺と金原へと伝わっていた。痛いなんてもんじゃない。様々な箇所を打ち付けた感触もあったが、確かめている余裕もない。
俯せに倒した金原に乗り上げ、右腕を後ろへ捻り上げる。呻き声を無視しつつ、反対の肩口を押さえて完全に拘束する。
そこでようやく一息ついて視線を上げると、目の前のドローンが狡噛の放ったデコンポーザーで弾け飛んだ所だった。
細かな破片が転がってくる。……踏まれなくて良かった。


「おーい、コウちゃん!こっちも!」


縢に促され、押さえ込まれていたもう一機のドローンも狡噛により沈黙する事となった。
これでどうにか一段落か。
大きく息を吐き出すと、怯えたように下にいる金原が震えた。……極めすぎたか?


「相変わらず痺れるね、ドミネーターの本気は」

「……俺は今全身が痺れている」

「でしょうね!無茶しすぎですよ!!狡噛さんも此木さんも!」


伏せていた身を起こし、感心したようにドローンの残骸を眺めていた縢にぽつりと本音を漏らせば、弾かれたように常守がこちらを向いた。
そのまま駆け寄ってくる。咎めるような視線と声だ。
それにしても、でしょうね、とは。常守の遠慮がなくなってきているような気がする。


「おい、待ってくれ。俺も含まれるのか?」

「筆頭は狡噛だろう?」

「生身で飛び降りてくるような監視官には負けると思うが」

「生身でドローンと競争する執行官には勝てないよ」


常守の矛先を互いへと押し付け合う不毛なやりとりを続けていると、「どっちもどっちじゃない?」という縢のひどく冷静な突っ込みに遮られる事になった。



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