飼育の作法H


大方の作戦内容が固まった所で、外側から扉が開かれた。二人が戻ってきたようだ。
先程よりも幾分かマシにはなっているものの、未だ険しい顔付きのままの宜野座と、どこか戸惑った様子でその背を追ってきた常守と。
二人が室内へと足を踏み入れた所で、口を開く。


「話し合いは終わったのか?」


そう声をかけてみれば、こちらを向いた宜野座がピシリと固まった。
見開かれていく瞳には、先程まで確かに宿っていた仄暗い光が消えている。
純粋な驚きの表情だった。
俺の存在を思い出してもらえたらしい。

あーやっぱ忘れられてたんだ……と縢が小さく呟いている。まさしくそんな反応だった。六合塚が耐えかねたように横を向く。
どうせなら励ましてくれ。笑うのではなく。
……お前達、後で覚えておけよ。
恨みを視線に乗せて送ってはみたものの、伝わったのかどうかは定かではない。


「すみません、お待たせしました。狡噛さんの案で行こうと思います!」

「そうか。それなら良かった。作戦はこちらで考えておいた」


切り替えたのか、常守の瞳は決意とやる気に満ちている。宜野座の説得には成功してくれたようだった。先程までの話し合いが無駄にならなくて何よりだ。

常守からは気まずさのようなものは感じられない。
単に、立ち上がらなかった段階で俺に宜野座を止める気はないのだと判断されてしまったのかもしれない。
流していい内容なのか。激昂の原因も理由も、彼女はまだ何も知らない。
戸惑いの理由もその辺りだろう。
しかし、戻ってきた時の宜野座のあの顔。何かしら揉めたのだろうか。後で常守に聞いておいた方がいいのかもしれない。


「狡噛、常守監視官に説明を。宜野座には頼みたい事がある」

「なんだ?」

「金原を揺さぶる間、他の職員に万が一にでも危害が及ばないようにしておきたい」

「……少しの間、人を遠ざける程度なら許可も取れるだろう。生産ラインを止める必要もない」

「任せてもいいか?」

「あぁ。話を通しておこう」


普段の宜野座なら、ここで立てた作戦内容を深く突っ込んでくる。どうするつもりだ、それで、それから、と。此木、解っているとは思うが一人で勝手な行動はするなよ、と最後に小言が飛んでくる。
それが、一切ない。
調子を狂わせてしまっただろうか。
まぁ、作戦など立てずに始める方が圧倒的に多いのだが……どちらにしろ、こちらとしては助かった。詳しく話せば絶対に止められる。それだけは断言出来る。


「常守達は外でドミネーターの準備を始めておいてくれ」

「此木さんは何をするんです?」

「少し中を歩いてくる。内部の構造を把握しておきたい」

「……俺もリョウに付いていこう」


一秒にも満たなかったが、宜野座と征陸さんが交わしたアイコンタクトを俺は見逃さなかった。
アイコンタクトにしては視線が鋭すぎたが、伝わっているのだからさすがとしか言いようがない。
特に何もするつもりはないのだが。
どうしてそういう所だけは仲が良いんだ。


「……すぐに合流する」


今この場で何を言っても、宜野座を変える事は不可能だろうな。
やぶ蛇は控えたい。
またゆっくりと話が出来る時にでも、それとなく切り出してみる事にしよう。

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