飼育の作法C


side常守

宜野座さんに呼ばれた此木さんは、何故だかひどく嫌そうな表情を浮かべてそれに抗っていた。
狡噛さんと六合塚さんの二人から促されて管理室へと向かって行った姿を思い返す。
護送車へ乗り込む、といった不思議な行動を取る事はあっても、現場に入った後の此木さんは、浮き沈みのない、淡々とした言動で捜査に臨む人だという印象を持っていた。
それこそシェパード『ゼロ』と、そう呼ばれるままのような。
揺らがない人だと思っていた。

それが今日は、どうにも違っている。
工場の中に足を踏み入れてからの此木さんは、どこか様子がおかしいように思える。
どうしたのだろうか。
同行を嫌がる理由も分からない。
私と本部へのデータの転送に向かっても、宜野座さんとはすぐに合流する事になると思うのだけど。


「此木さん、どうかしたんでしょうか……?」


素直に訊ねてみる事にする。
着任したばかりの私よりも、縢くんと征陸さんの方が此木さんの事には詳しい。
縢くんと食事をした時も、私には知らない事ばかりだった。
ひどく大雑把になってしまった問いかけに、二人はすぐさま苦笑を浮かべる。


「あぁ……ありゃ面倒だったんだろうな」

「あの主任も、リョウちゃんの嫌いなタイプだったからねぇ」

「えっ……ええ!?そんな理由ですか!?」


面倒。嫌い。
二人から返ってきたあんまりな答えに、思わず聞き返してしまっていた。
確かに嫌そうだったけれど……!
もっと他の、なにか別の。私の知らない、何らかの理由があるからだと思っていたのに……!


「まぁ、あそこまで露骨に出るのは珍しいが……今頃伸元はここの主任相手に腹芸の真っ最中だろうしなぁ」

「面倒事はギノさんに丸投げしたかったんじゃない?」

「ど、どういう事ですか……?」

「朱ちゃんも資料見たっしょ?ここってば経済省管轄の官営なんよ。お役所は縄張りの利益を守ろうとするからね、余計なちょっかい出されて工場の生産効率落としたくはないよねぇ?」

「そんな……人の命が失われたのに……」

「どこを取ってもリョウの嫌いなタイプってわけだ。向こうは一刻も早く事故死で決着を着けたいんだろうが、そういう訳にもいかんからな。まずは楽しい話し合いだ」

「はは。よっぽと嫌だったみたいよ?下がりすぎないようにクニっちにガードされてたし」

「そこまでか……!怪物も形無しだな」


縢くんと征陸さんは、楽しげに話している。
ひどい言われようではあるけれど、嫌な笑い方では無い。親しみが感じられるような……羨ましくなる、そんな笑い方だった。
宜野座さんと此木さんは、執行官への接し方はまるで違う。けれど、どちらも信頼されている。
なにもするな、とは言われないのだろう。


「……お嬢ちゃんも一度、リョウとゆっくり話してみるといい」

「あー、それに喋らないと独り言が増えるみたいよ。リョウちゃんもヤバかったって前に聞いた事がある」

「そう言えば5係だった執行官がそんな事も言っていたか……」

「ええっ」

「職場じゃ俺らと潜在犯の相手、家に帰っても一人で寝るだけ、休みもそうそう確定して取れない、なんて生活じゃねぇ……」

「改めて聞くと、なかなかのものだな……伸元は大丈夫か……?」

「………………」


確かに、遊びには滅多に行けないかもしれない。
友達にも話せない事も多い。
監視官同士であっても、いきなり仲良くなるのは難しそうではある……。
独り言、増えただろうか?
ホロのキャンディに話しかけるのも、この場合はアウトなのだろうか……。いや、キャンディは別な筈だ。あれはただ、表示サポートへの指示を出しているだけだから……だ、大丈夫だよね?


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