成しうる者C
一係の待機室に入ると、常守監視官は既に現場へと赴いた後のようだった。すれ違いくらいはするかと思っていたのだが、どうやら一歩遅かったらしい。
連れて出たのは征陸さんだけのようだ。
シフト明けが二人。宜野座の姿はない。
携帯ゲーム機で遊んでいたらしい縢が顔を上げ、俺を見ると目を丸くした。
「あれ?リョウちゃん今日休みじゃなかった?」
その声を受けてか、広げた譜面に視線を落としていた六合塚も、こちらを見て不思議そうに首を傾げる。
「当直は常守監視官だけでは?」
「あぁ。狡噛の見舞いに寄っただけだ」
予定に変更でもあったのか、と言いたげな二人に、今日ここへ来た目的を告げる。
無理もない反応だとは言えた。休日にまで顔を出しに来る事は滅多に無い。それは宜野座や他の監視官達も同じだ。
元々休みが少ないのだから、関係の無い日にまで仕事場に立ち寄りたくない、というのが正直な所だった。
もっとも今日は、その前に局長に呼び出されても居たのだが。
わざわざそんな事まで話す理由もない。
俺自身の目的は狡噛だった。
「コウちゃんどうだった?てか、もう起きれんの?」
「目は覚めていたが、まだ動けないだろうな」
「そっか……」
納得とも落胆ともつかない声を上げ、力を抜いたらしい縢の上体が後ろへと倒れる。
椅子の背凭れへと体重をかけながら、片手でゲーム機の電源が落とされた。
やはり心配だったらしい。
意識を失う執行対象は見慣れていても、同じ執行官が倒れる姿はショックだっただろう。
「狡噛は丈夫だから、あまり心配する必要はないんじゃない?」
しかし、六合塚は全く気にしていないようだった。
とてもクールな反応だ。信頼からくる言葉だとは思うのだが、やはり敵には回したいとは思えない。
「そりゃそうだけどさぁ。いやー、でもまさか撃つとは思わなかったよ。上から見てたけど、ほんとビックリした」
「常守の様子はどうだった?」
「えっ、そっちまで気にしてんの?あー……特に変わったようには見えなかったけど?」
「ちょっとした嫌味を言っている人はいましたけど、私が止めておきました」
「バラすなよ!」
勢いのまま自分だと自白した縢が、ハッとしたように俺から視線を逸らす。
一体何を言ったんだ。
追求してみたい気もあるが、今はそうしている場合でもなかった。
昨日の今日で、執行官をただ一人だけ連れて出た新人の様子を、確かめなければ。
ホログラムを纏い、現場へ向かった常守と征陸さんが対象を捕まえたという通信が入ったのは、それからすぐの事だった。