キョロキョロと辺りを見回していたアルミンとミカサの二人が、エレンの姿を見つけるなり笑顔で駆け寄ってくる。
「エレン!」
「久しぶり、エレン」
「あぁ。元気そうだな、二人とも」
エレンの前で急制止したミカサは、上から下まで、エレンの変わり無い様子を眺めた後、そわそわと落ち着きなく視線をさ迷わし始めた。
明らかに様子が変だ。
「どうしたんだ?」
「ミカサ、言っちゃおう」
アルミンはなんだか楽しそうに、そう促している。
意を決した、らしいミカサが、ゴクリと唾を飲み込んた。
真っ直ぐな視線が、エレンへと向けられる。
「……エレン。トリックオアトリート」
「は……?」
「トリックオアトリート」
「え、あ、ハロウィンか……?いや、オレ今なにも持ってないんだが」
「お菓子をくれないなら、イタズラだ」
エレン、と。ミカサから名前を呼ばれ、右手が差し出されている。
アルミンからは左手が。
意図を察したエレンの瞳が、見開かれた。
「この年でそれをすんのか……!?」
「イタズラだから」
「いいじゃないか、エレン。久しぶりにさ」
引くつもりはないらしい二人に押され、ぐ、と呻いたエレンはそれぞれ、右手と左手を相手へと伸ばす。
一体、何年振りだろうか。ガキの頃だって、数回あったかないかだった。
葛藤を押し殺すように、ゆっくりと繋がれた手に、満足そうに笑ったアルミンとミカサはそのままエレンを引っ張り歩き出した。
「お、おい。どこに行くんだ?」
「ナナシ分隊長のところ」
「えっ!?」
「他の上官達のところは、ちょっと勇気がいるけど……ナナシ分隊長なら大丈夫でしょ?」
「いや、一番勇気がいる相手じゃないか……!?アルミン、ミカサ、お前らいつの間にそんなに仲良くなってたんだ?」
「ナナシ分隊長なら大丈夫」
「エレンもいるしね」
「オレが!?って、ちょっ、本気か?まさかそのままリヴァイ兵長のところにも行こうってんじゃ──」
「………………それはそれで、有りかもしれない」
暫く考え込んだ末に出されたミカサの答えは、明らかにそれまでの温度とは異なる声音だった。
若干青くなったアルミンを知ってか知らずか、ミカサはずんずんと歩く速度を速めていく。
それはそれで……って、一体何をするつもりなんだ。
「でもまずは、ナナシ分隊長のところ」
引かれて歩調を乱した二人を振り返り、ミカサが珍しく、素直な笑みを浮かべてそう言ってきた。
こんなに楽しそうにするのなら。
止める必要は、ないのかもしれない。
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