目的の部屋を目指し、歩を進める。エルヴィンからの呼び出しだった。
104期生の所属兵団の選択が、先程終了したばかりだ。成績上位者のほとんどが今年は調査兵団へと入ったが、全体で見れば駐屯兵団が圧倒的だ。
限られた人数。それも減っていくばかりの調査兵団では、生き残るための作戦も常に考えていかなければならない。

扉を叩くのは二回。
ノックに返事は無かった。
構わずに扉を開けると、腕を組み、壁に背を預けていたリヴァイと目が合う。


「……居たのか、リヴァイ」

「エルヴィンなら出た所だ。直に戻る」

「と言うより、居るのなら返事をしたらどうなんだ」

「必要ねぇだろう。お前もいつもしないくせに何言ってやがる」


呆れたような声音が返ってくる。
その言葉にざっと過去を振り返ってみる。言われてみればそうかもしれない。
エルヴィンが中に居るなら返答がある。ないならないで先に入って待つだけだった。

リヴァイが居るという事は、イェーガー絡みの話だろうか。
リヴァイ班。あの子供を守る為に作られた班の拠点は、古城を改装した旧調査兵団本部だった。立地の悪さ故に現在は使われていない施設だ。
つい先日、掃除を終えたらしいリヴァイが何やら愚痴を言っていたのを思い出す。想像以上に汚れていたらしい。


「思っていたよりは、残ったようだな」


唐突に投げられた内容に、思考を切り替える。
104期生の事だろう。
21名。首席と次席が入っただけでも、収穫だとは言えた。


「シガンシナを目指すなら、それでも足りないだろうが……」

「そのつもりはねぇんだろう」

「イェーガーか……」


エレン・イェーガーを絡めて、エルヴィンは何かを考えている。
勧誘での脅しに似せたあの発言。
呼び出された理由もそれに関わる事だろう。


「おい、ナナシ」

「なんだ?」

「お前、まだエレンと話してないだろう」

「…………」

「やっぱりな……。特別作戦班のやつらともだ。名前くらいは覚えてるんだろうな?」

「当然だ」

「はっ……なら一度、いい加減顔くらいは出しに来い」

「……寂しいのか?」

「あ?」


イェーガーからは怖がられている。
リヴァイ班のメンバーとも、打ち解けて話すようなガラではない。たまに顔を出しに行っているらしいハンジくらいだろうか。あちらで対等に話せる相手は。

だがそう言えば、恐ろしい表情でリヴァイがこちらを睨み付けてきていた。


「照れるな」

「削がれてぇのか」


空気が凍ったところで、不意に扉が開かれた。
戻ってきたエルヴィンが軽く目を見開いてそんな俺たちを視界に入れ、次いで苦笑を浮かべる。


「待たせてすまなかった。リヴァイ、ナナシ、さっそくだが始めてもいいか?」

「あぁ」

「問題ない」


エルヴィンの問いに頷き、姿勢を正す。
イェーガーの監視に、護衛。今はまだリヴァイが居れば十分だろう。


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