「あの…?」
「…………」
ドン、と。
壁に腕を付き、少女を追い詰める。
壁と俺に挟まれて、戸惑うように見上げてくる瞳に少しだけ罪悪感を感じた。
本来であれば、こんな態勢に持ち込む事自体出来ない筈だ。
対人の格闘訓練は、体に染み込んでいる。襟を掴んで頭突きをするなり、無防備な腹を殴るなり。なんだって出来る。それを、少女は自らの意思で押さえ込んでいる。
そうして、その意図を。
俺に尋ねようとしている。
不思議そうに。
不可解そうに。
意地の悪い言い方をするならば。
信頼からくる油断、だろうか。
「逃げるべきだったな」
一言だけ、そう告げる。
何かを言おうと開いたその唇に。
身を屈めて、俺はそっと距離を詰めた 。
***
「はい、というわけでね。これが正しい壁ドンの使い方かなー?」
「疑問系なのはなぜだ?」
「ぶっちゃけこれも合ってるのかよく分かんないからさ」
「おい」
「リヴァイが仕掛けてきた壁ドンの方が馴染みが深いからね」
「あれ、楽しそうだったな」
「いや、そう見えていたのならびっくりなんだけど」
「あの後、エレンを追い詰めていただろう?」
「あぁ、あれね。つい興奮しちゃって」
「興奮するとああなるのか」
「たまに」
「恐ろしいな」
「あれはあれで壁ドンだと思うわけなんだけど」
「元ネタは知らないが」
「真の壁ドンは、あなたがた一人一人の胸の中にあるのさ…」
「ちなみに俺が一番に連想するのは、シガンシナの──」
「はい終了!」
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