「楽しそうだよねぇ…ほんと、なにがあったんだろう?」


頬杖をついたハンジが、エレンと話し込むナナシを見つめて口を開く。
今日はまた、巨人化の実験をする為にコイツもこの旧本部へとやって来ていたのだが、ナナシも付いて来たらしい。
最近は俺の代わりという訳でもなく、暇さえあればこちらへ来てきるようだった。

弾んだ会話…と言うよりは、エレンの言葉にナナシが相槌を打ち、時折何か口を開いてはエレンが嬉しそうに返事をしている、といった様子だ。

距離を計りかねるようにハンジが俺の正面に座ったのは、邪魔をするのも気が引けたせいだろう。


「リヴァイは何か知らないの?」

「本人に聞いたらどうだ」

「答えてくれないから聞いてるんじゃない」


それを俺に聞くな。
ナナシの変化を喜びはしているようだが…今までナナシと一番親しいと言える関係だったのはコイツだった。
まさか、寂しいなどと言うつもりか。
全く興味はないが。

うだうだとハンジの話を聞いているのもいい加減飽きてきた。
そろそろ始めてもいい頃合いだろう。
未だ何かを喋り続けているハンジを無視して立ち上がる。


「エレン、行くぞ」

「はい!」


呼び掛ければ、すぐに返事が返ってくる。ナナシもやはり同行するようだ。

そろそろ一度、試しておいた方がいいのかもしれない。手足を犠牲にする事なく、うなじ部分からエレンを無事に取り出す方法を。
アイツがいるのなら、手間取る事もないだろう。





実験の前に、ハンジが一通りの確認を済ませている。
黙ってその様子を眺めていたナナシが、不意に視線を俺へと寄越した。


「…なんだ?」

「さっき、ハンジと何を話していたんだ?」

「お前がエレンと仲良くなりすぎていて、羨ましかったんじゃねぇか?」

「なんだそれは…?」

「知るか。そういうお前は何を話していたんだ」


エレンとなにがあったのか。
そんなものは俺も知らない。
ただ、巨人をぶっ殺したいと告げたエレンにも無反応だったコイツが、興味を示した理由と言うなら。
気にならない訳でもない。

あの憎悪すら、どうでもいいと切り捨てておきながら。
まったくもって分からねぇ奴だ。


「お前に褒めて貰えたと、嬉しそうに言っていた」

「………は?」

「掃除だ。褒めたんだろう?」


掃除?
いきなりの単語に、思考が空回った。
一拍おいて、昨日の事を思い出す。
旧本部の大まかな清掃は終わっていたものの、庭や細かな場所まではまだ手が回っていなかったのだ。それを昨日一日がかりで掃除していた。
終わり頃になり、ひどく緊張した様子のエレンにどうでしょう!?と尋ねられ、悪くない、と答えた。この調子でやれ、とも言ったかもしれないが。
ただそれだけの事だ。


「だから、飴と鞭に惑わされるなと言っておいたんだ」

「人聞きの悪い事を言うんじゃねぇよ」

「エレンまで潔癖になったら、どうしてくれる」

「移るわけねぇだろうが」

「おーい!二人ともー!もう始めてもいいかい?」


いつの間にか、確認は終わっていたようだ。ハンジがこちらへ手を振っていた。
話しすぎていたらしい。


「あぁ。大丈夫だ。始めてくれ」


相変わらず。
切り換えの早さは兵団内ではコイツが一番かもしれない。
立体起動のトリガーを握り、ナナシはもうそちらへ向かっている。

会話を切り上げるタイミングというものが、腹立たしい程に絶妙だ。
ナイルがナナシを苦手としているのも、このあたりが原因の一つなのかもしれない。


「リヴァイは?オーケーかい?」

「あぁ。いいからさっさと始めろ」

「ちょ…!なにその言い方!誰を待ってたと…!」

「エレン、始めて大丈夫だ」

「ナナシまで私をスルーしないで!」


騒がしいハンジは無視して、ナナシがエレンに合図を送っている。
まぁこの光景も、近頃は見慣れてきたものだった。

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