「イェーガー。以前から思っていたんだが…」


そう言って、ナナシ分隊長がオレの右手を見つめる。
何度か噛み切った為に血が滴っているのだが、巨人になる方法は今のところこれしかない。
エルドさんに聞かれた時にも思った事だが、どうして自傷行為が引き金になるのかはわからない。身体が勝手に動いていたのだ。


「毎回、噛み切る必要はあるのか?」

「………はい?」


なにか、根本的な事を聞かれた気がする。思わず間抜けな声が出てしまった。

もっとこう…巨人化に関する事を言われるのだと思っていた。
言い方が悪かったと思ったのだろうか、ナナシ分隊長が暫し考え込んだ後に、再び口を開く。


「自分を傷つけるだけでいいのなら、噛むよりはこうやって…」


と言いながら、刀身を引き抜き、その指先に宛てる。
ゆっくりと引かれる刃。
すっ、と小さな傷が開き、ナナシ分隊長の指先から赤が零れた。


「ナナシさん…!?」

「問題ない、この程度すぐに塞がる」


いや、そういう問題じゃ…!
そう思うが言えない。
なにも実践しなくとも。
驚きに見つめていると、これでいいんじゃないか?と、ナナシ分隊長は首を傾げた。


「………そう、ですね」


けれど言われてみれば、確かにそうかもしれない。
その指先と、自分の右手を見比べる。
負傷具合は明らかに刃の方が軽い。
何故毎回毎回、オレは飽きもせずに自分の手を噛み切っていたのだろうか。


「………まぁ、咄嗟の場合は噛む方が早いのかもしれないな」

「……はい」


フォローされてしまった。
何とも言えない沈黙が流れる。

心配…して貰えていたのだろう。礼を言った方が良かっただろうか。
チラリと窺えば、ナナシ分隊長は特に気にした様子もなく刀身を鞘に収めている。
その武器で、一体どれだけの巨人が葬られてきたのだろうか…
一度リヴァイ兵長に訊ねてみた事があるのだが、そんなもんいちいち数えてられるか、と一蹴されてしまった。



「あの……有難うございます」

「いや、気にするな。手当てでもしに行こう。…俺の分も」

「やっぱり痛んじゃないですか…!?」


見れば、ポタポタと血が滴っている。
傷口は鋭利な為すぐに塞がりはするのだろうが、案外ザックリといってしまっていたらしい。

思わぬ失敗に驚いていると、遠くからオレ達を呼ぶハンジさんの声が聞こえてきた。

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