「おい、おいジャン!大丈夫か?」
ゆさゆさと。
肩を前後に揺さぶられ、はっと我に返る。
軽く意識が飛んでいた。
コニーが心配そうに俺を覗き込んでいる。
「さっきお前が話してたのってナナシ分隊長だろ?なにかあったのか…!?」
「………いや、なにも…」
なんとかそれだけを返答する。
見られていたのか。
ミカサが来た、そのすぐ後にナナシ分隊長が現れた。
軽く紹介された後、じゃあ、などと言ってミカサはすぐに去ってしまうし、残されたのは俺一人だ。
いきなり二人きりにされて、一体何を話せと言うのか。
「……何を話したんだっけな…」
「覚えてないのか?」
つい先程の事だというのに、どうにも記憶が曖昧になっていた。
聞きたい事はあったのだが、失礼のないようにするにはどうすればいいのか。
分隊長だとか兵士長だとか。
一般の新兵である身からすれば、会話の糸口すら見つけられない距離感だ。
「クソ、エレンをよろしく頼みますとか言っちまったぞ…!」
そこだけは良く覚えていた。
話題に困ったからと言って、どうしてそんな事を言っちまったのか…!
『キルシュタイン。イェーガーの同期だったな…友人なのか』
『はい!』
とか答えちまったぞオイ。
自分の即答ぶりを思い出して、頭を掻きむしる。
ただじっと見られていただけだ。
だと言うのに緊張で手に汗が滲んでいた。
しかもそう答えると、ナナシ分隊長の表情が僅かだが和らいだ気がする。
「いや、そこは気にするとこじゃねーだろ。あの人だろ?エレンを見てくれてる人って」
「あぁ、そうだが…」
「ならいいじゃねぇか。友達として当然の発言だぜ」
「………」
言葉を失う。
こいつは俺とエレンを、そんな心配をし合う友人関係だと思っていたのか。
…だが、この際そこは無視する。
今はそれどころじゃない。
…そうだ。
それでも、これだけは。と。
尋ねたのではなかったか。
『あの…ミカサとは、いつもどんな話を…?』
『アッカーマンと…?そうだな…主にイェーガーの話や…』
そこまで言って、はたとナナシ分隊長の動きが止まった。
まじまじと見つめられて、ギクリとこわばる。
そのまま固まっていると、どこか納得の表情を浮かべたナナシ分隊長にポンポンと肩を叩かれたのだ。
励ますような、応援するような。
そんな動きだった。
おい…
おいおい…
まさか、今のだけで、気付かれ………
そこで冒頭に戻るわけである。
「……………」
「なんであれ、話せて良かったな!あとでミカサに礼言っとけよー!俺も今度頼んでみようかな。色々為になる話とか教えてもらえそうだし」
まだ何か話し続けているコニーの言葉を聞き流しながら、ジャンは真っ白になった思考でナナシ分隊長の立ち去る背中をただ思い返していた。
まさか、こんな事になるなんて。
自分は一体どこで何を間違えてしまったのだろうか。
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