静かだ。
皆が去った後も、一人きりで椅子に腰かけたまま、何をするでもなくぼーっと過ごす。
そろそろ自室に戻らないと。そう思いはするものの、動く気にもなれずにエレンは嘆息した。

敵を見る目。
向けられた武器。
庇われた背中。
手のひらに残った噛み痕。

そんな光景をぐるぐると思い返していると、いつの間にかすぐ近くまで来ていたナナシ分隊長にぐい、と結構な力で頭に触れられた。


「大丈夫か?」


その第一声に驚く。
なにがですか、とは言えなかった。
加減を抜いた力で二三度頭を撫でられ、痛いです、と言えば無関心そうに「そうか」の一言だけが返ってきた。

暫くの間互いに無言のままでいると、息をついたナナシ分隊長が隣に腰かけてくる。


「何があったかは大体聞いた。ハンジが煩かっただろう」

「いえ…助かりました」


たしかに、煩かったかもしれない。
だけどハンジ分隊長のおかげで、オレの話を聞いてもらう事も出来た。
あのままだとどうなっていたか分からない。
オレも、先輩達も、混乱していた。


「オレは敵じゃありません」


そう言いたかっただけなのかもしれない。落ち着いた今ならわかる事が、あの瞬間は思い浮かびもしなかった。
落ち着け、と低く響いたあの声が、自分に向けられたものではないと分かった瞬間に、なにもかもがわからなくなってしまったのだ。


「敵だとしても削ぎ落とすだけだ…問題はない」

「…………今の、リヴァイ兵長の真似ですか?」

「我ながら似ていなかったな」


半拍置いて見返せば、視線を逸らされた。オルオさんよりは似ていたかもしれない。
本当にリヴァイ兵長が言ったとしたら、もう少し乱暴な言葉遣いになるのだろう。


「リヴァイはフォローが下手だからな…する気もないのかは知らないが」

「ナナシさんは、どう思いますか?」

「どうとは?」

「オレは人類の敵だと思いますか?」


思いきって聞いてみる。
どんな答えを期待したのか自分でもわからなかったが、ひどく緊張しながら、その表情を見つめていた。


「敵だとしたら、こんなに落ち込んだりはしていないだろう」


緩く笑む瞳に、息を飲む。
目頭が熱くなるが、なんとか堪える。
俯いた拍子になにかがポタリと落ちた気がしたが、ナナシ分隊長も気付かぬふりで立ち上がってくれた。

prev next

back


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -