大体こんな人々2


二年生(丹三郎・翠)

部活も終わり、外は既に黒く染まって西側だけうっすらと茜色が残っている。自宅へ帰る組は少し前に部室を発ち、寮に戻る組は既に寮行きのバスへ乗っていた。ああ、志都と端博は体力強化メニューとして走って帰っていたな。
普段なら僕もバスに乗っているはずだが、今はバス停と真逆の第2体育館に向かっていた。理由は単純で、ただ体育館内にノートを忘れただけだった。この時間の体育館なら、ノートは無事だろう。無事、と銘打てるのも、理由は単純だった。

もうどの部活も終わっているのに鍵のかかっていない体育館の扉を開く。そこには、髪を高く結んだ女子が雑巾を重ねて運んでいる姿があるだけだった。

「あれ、丹三郎くん?どうしたの?」
「忘れ物をしてな。緑柱、舞台の上にノートはなかったか?」

ああ、と一声上げた後に小走りで舞台袖へ向かった。数十秒もすれば、緑柱の手にあった雑巾がノートに変わっていた。

「あとで寮の管理人さんに届けて貰おうと思ってたんだ」
「それは済まなかったな」

手渡されたノートを受け取る。これが無事だと分かっていた理由だ。
緑柱は遅くまで残り、体育館の整備をしてから最終のバスに乗っている。誰に言われたわけでもなく自主的に、しかも一人でやると言って聞かない緑柱のこだわりは未だよく分からない。

気が付けば今度はボールを綺麗に拭き始めていた。

「本当に毎日飽きないな、緑柱」
「え?あはは。中学にマネしてた時の名残かな。帰る前に整備しないと落ち着かなくて。
それにね」

ボールを拭き終わるのは残り一つ。しかしそのボールは雑巾に触れさせることなく、だんっ、と体育館の床を跳ねた。緑柱はそのままドリブルを始め、フリースローラインまで走っていく。
ボールによって体育館の床が弾んでいたが、それが停止した。ボールは緑柱の手から離れて弧を描き、ネットの中を通っていく。

「これ、残った時間に特訓できるから役得なんだよ」
「なるほどな」

緑柱が落ちてきたボールを拾い、僕にパスを出してきた。一対一でもしよう、と言うことか。ボールを前に突き出し、足を踏み込む。
と、何もないところで足を滑らせびったーん!!と盛大な音を立てながら転んだ。

な、なんだ……!?何故いきなり…はっ!まさか!!

「ポルターガイストか…!?」
「丹三郎くん違う!ごめん床濡れてるの拭ききれてなかった!」

なんだそうか、と浮き上がった気持ちが沈む。オカルト体験したかと少し嬉しかったのに。
ため息をついて立ち上がろうとした瞬間、足首に少し鈍い痛みが走った。軽く捻ったか。思わず眉間にシワが寄った時、はっとした。緑柱が目を開いているのを見て、しまった、と嫌な予感が走った。

「足捻ったの!?」
「気にするな!捻ってない!!」
「嘘言わないの!みんな怪我を隠すときはそういう言い方と顔になるんだから!!」

慌てて僕の横まで走ってき、膝を折ってしゃがんだ。そして何のためらいもなくがばぁっ!と横抱きに持ち上げた。一体緑柱はどこにその力が入っているんだ!?こいつの怪力が人生最大のオカルトじゃないのか!?
緑柱に横抱きにされるのは最早、バスケ部員が怪我をした時の通行儀礼だった。あのバスケ部内最長でがたいも結構いい金剛でさえ、緑柱にこれをされている。
しかし男のプライドもあるので誰もが当然抵抗はする。

「緑柱!自分で歩けるしテーピングも出来る!おろせ!!」
「駄目です!!選手にとって足は命だし小さな重なりが酷い怪我に繋がるの!」
「だが、」
「怪我人は大人しく言うこと聞きなさい!!!」

カッ!!と謎の威圧感と迫力に、逆らえることはなかった。そもそも、自分を軽々と持ち上げる奴に抵抗しようと思うのが間違いなのだろうか。

帰り、バス停まで背負われ、運転手が驚いた顔をしていたのは言うまでもない。


(真面目に見せかけてどこか変)




先輩後輩(晶・青太・霖)

「晶せんぱーい!」

久々の部活の休みを使って、午後からは用事入ってるし午前中に新しいシューズでも買おうかとスポーツショップを覗いていたら聞き慣れた声が俺の耳に入ってきた。
振り返ったら、年下だけど俺よりも背の高い男女ペア。おお……目立つ目立つ。

「霖、青太。偶然だな、ここ学校から結構遠いのにどうしたんだ?」
「うち大阪からこっち来てまだちょっとしか経ってへんやん?ええ店ないかなーって思って青太に聞いたらここが安くてええよーって青太が言ったから案内してもらっててん!」
「オレ昔この辺りに住んでいたので…。
ていうか霖、もうちょっと敬語使わないと駄目だよ」
「は!せっやった!!ごめんなさい…!」
「ははっ、気にすんなって」

しゅん、と肩を落とした霖の頭を少し背伸びして撫でる。…俺結構身長あるのに、霖は本当大きいな…。バスケ選手としては良いことだけど、やっぱ俺と同じようにこいつも女だし身長高いこと気にしてるのかなぁ…。
ちょっと霖の顔を覗いたら、顔を赤くしながら嬉しそうに頬を緩めていた。…あ、これは嬉しかったのか…。俺も頭撫でられるのなれねぇから分かるな気持ち…。

「先輩の家はこの近くなんですか?」
「ん、まあそうだな。チャリで20分ぐらいのとこにあるぜ」
「え!?ほんまですか!うち先輩の家行ってみたいー!!」
「そんないきなり行ったら先輩が迷惑だろ霖…」
「つか俺ん家せっめぇからなぁ……」
「なんや…残念です……」

再びしょぼーんとする霖に、俺と青太が同時に苦笑を漏らす。こいつ犬みたいだなぁ。
でも俺の家、本当狭いしこの二人と俺が入ったら結構……いやかなりスペース取っておもてなしとか出来ないだろうしなぁ。
でも、まさか霖がここまで落ち込むとは思ってなかった。どうしようかな…。こいつが落ち込んでいるのを再び浮上させる方法……うーん……。

「あ、そうだ霖に青太。家は無理だけど俺の中学一緒に行くか?午後から後輩に顔出せって言われてんだけど、そこでバスケ出来るとおもうぜ?」
「え!?ほんまですか!?いくいくー!」
「オレもいいんですか?」
「おーいいぜ。今のバスケ部の話ししてる時にいつも連れてこいって言われてるな」

やったあ!!と店の中で大喜びの霖。うん、嬉しいのは分かったからそこまで大きく喜ぶのもどうかと思うぞ霖!目立つから!!俺等結構身長高いしお前のその小躍り結構目立つから!ほら周りの視線が!!
青太のどうどうと言い出しそうな感じのなだめ方でやっと落ち着いた霖。やっぱ犬みたいだなぁ……。


青太と霖に相談しながらもシューズを購入して、店を後にする。俺はチャリだったけど流石に二人いるし乗らずに、荷物だけカゴに入れて手で押しながら歩いた。

「晶先輩!学校こっからどんくらいなんですか?」
「んー。まあ1キロぐらいかな。歩きで大丈夫か?」
「そのくらいなら大丈夫ですよ。いつも走る距離に比べたら」
「だよなー」

あはは、とちょっと乾いた笑いが出てくる。
珠佳が作ったメニューはもう血反吐が出そうなぐらいハードで、元バスケ部だった俺等3人ですら体力の消耗が半端じゃないぐらいだ。
これがあまりバスケで意味なかったりしたらちょっと怒るけど、これがまた大切なことばっかりだし、絶妙なぐらいぎりぎりぶっ倒れないレベルのメニューだからあいつは怖い。俺がバスケやってたの確かに見てたけど、珠佳は元々薙刀メインに武道ばっかしてたのに…あいつのスポーツセンスは選手としても支持する側としてもどうなってるんだ…。

「うち…珠佳先輩は時々化けもんちゃうかとか思い始めてます…」
「霖…それはちょっと言い過ぎじゃ……」
「いや、幼なじみな俺でもたまに思うから別に大丈夫だろ…」
「紫水先輩!?」
「初心者であれだけできたらちょっとジェラシー感じちまうもん!!」
「あー…」

納得いった表情する青太。
今のバスケ部でバスケを小学校からやっていたのはここにいる三人と闘牙、虹助なのに、その中で軍を抜いて上手いというか光っているというのが珠佳。練習試合をしても一番ポイントを取るのはあいつなんだよなぁ……。

「くっそ!負けてらんねぇぞ霖、青太!」
「ほんまそれです!!バスケ一筋でやってきたからには珠佳先輩ぬかさな!!」
「オレも頑張ります…!」

とりあえず、今から中学の後輩達と3on3でもやろうかな。


(元々バスケ部で少し体育系の人達)




幼なじみ(あくあ・虹助)

学校のお昼休み、お弁当も食べ終わって日向ぼっこでもしようと思って学校の裏庭に足を運んでいたら、バスケットゴールが設置されてある第二グラウンドでいつも見ている人影が一つ。

「あ、虹くん!」
「あくあ!お昼終わったの?」
「うん、日向ぼっこしようとおもって〜」

ぽかぽか暖かい日差しだし、こんな日にお外にでないのはもったいないよね。そう言うとバスケットボールを抱えたまま虹くんは「ねー」と同意してくれた。
でも時々気持ちよすぎて寝ちゃうのがだめなんだよなぁ…。お昼の後の授業は数学だし、お昼でぽかぽかして気分が気持ちよくなりすぎたら寝ちゃって怒られちゃうかも…。うーん……。
その時、虹くんが持ってるバスケットボールに目が行った。

「虹くん、わたしも一緒にバスケしていい?」
「もちろんいいに決まってるよ!」
「わあ、虹くんと二人でバスケするの久々だね〜!」
「ねー」

ふわっと投げられたボールをキャッチして、ドリブルしてみる。
小さい頃は虹くんがちょっとだけバスケを教えてくれて、一緒にしてたけどまさか部活に入ってするとは思ってなかったなぁ。
まだちょっと、昔使ってたボールより一回り大きい高校生用のボールが何度も跳ね返ってくるのは怖いけどリズムよくドリブルできたときは気持ちよくてたまらない。

ドリブルを止めて、ボールを持ってシュートしよう。……と、思ったけど、ボールを持つときに少し足を踏み外してしまって思わず前のめりに。

「きゃっ!」
「わあ!?あくあ、大丈夫!?」

持ってたボールは遠くに放り投げてしまって、そのままびったーんとグラウンドにご対面。
ううう……ちょっと痛いかも……。

「あくあは本当昔からよくこけちゃうね…。はい、絆創膏」
「えへへ…いつもごめんね虹くん。…あれ?ボールは?」
「え?」

虹くんが出してくれたうさぎの模様が描いてある絆創膏を受け取りながら、きょろりと辺りを見渡して放り投げちゃったボールを探す。
グラウンドにはどこにも落ちて無くて、もしかしたら裏庭の方まで転がっちゃったかなぁとか思ってたら、「あ!」と叫んだ虹くんの声が。

「あくあ、ゴールの方!」
「ゴール?」

指さされた方…ゴールの方を見てみたら、丁度ボールがネットを通ってそのまま地面に落ちた瞬間だった。

「わあ、入っちゃった!」
「すごいねあくあ!」
「ね!わたしもびっくり!!」

トントントンと少しずつバウンドが小刻みになるボールを見ながら虹くんと騒ぐ。

そこからちょっとだけ二人でバスケしていたら、体が疲れちゃって次の数学の授業で居眠りしちゃったのは、先輩には内緒にしなくちゃっ。


(癒し系二人)

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