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珍しく朝早く起きれたのはいいものの、早起きに慣れてない体は頭痛がやまない。
二度寝しようとも思ったけど、そうしたら騒がしいのが来て無理矢理起こしてきそうだし、止めておこう。そっちの方で起きる頭痛のが酷そうだし。

思い頭と体をふらふらとさせながら、部屋の扉を開けてリビングを見てみれば、いつもなら誰も居ないはずなのにテーブルで朝食を食べている人物が1人。

「あら七瀬、おはよう」
「……いつ帰ってきたの、柚葉」

東京の大学で寮暮らしをしている姉が、何故かいる。

机の上には朝食らしいサンドウィッチが置いてあるが、どうみても量が一人分じゃない。…ああ、なるほど。

「私は朝食いらないわよ」
「食べないと頭回らないわよ」
「…………」

この姉に頭が、といわれたら勝てない。
渋々イスを引いて座り、一番具が少なそうなサンドウィッチを掴んで頬張る。…一口だけでもう十分なんだけど……。

「早朝帰ってきたわ。丁度母さんと父さんが仕事にいくところだった」
「そう、土曜日に帰ってくるなんて珍しいわね」
「例の黒い空間が大学内に出来てね。小さい物だったらしいけど対策とかもするために二週間ほど休校よ」
「そう」

淡々と過ぎる会話。黒い空間と言えば最近話題の、妙なものか。じゃあ今日の報道とか新聞で柚葉がいる大学の名前が出てきそうね。
どっかの馬鹿のツインテールは興味津々だけど、正直どうでもいいっていうか、興味はないというわけじゃないけどあれには極力近づきたくない。

「あれのせいで色々と法律とかも変わるかもしれないとか、土地云々の話題で大変よ」
「そうでしょうね。お疲れ様」

法学部である柚葉にはたまった物じゃないらしく、普段なら絶対にしないため息を一つ。こっちもサンドウィッチが胃に来てため息をつきたいぐらいだけど、柚葉がしたのならしたくないという自分でも子供じみた対抗心。

…それにしても、土地の問題ね……。

「珍しい植物が生えていたりする地域でも出てきて、薬学の方にも影響が出てるらしいわ」
「あら、そうなの。七瀬が進学するときぐらいには解決していたらいいけど」
「そうね」

法学を学んでる姉に、文系で勝てると思わなかったから別の形で勝てるように自分が選んだのが理系。薬学を習いたいけど、行きたかった高校の方にもこの黒い空間のせいで色々影響があるらしく、困ったもの。
……学ぶための機材とか、無くなっていたらまた別の特待生枠がある高校を探さなきゃ。

そう考えると、さっき耐えたはずのため息を自然に出してしまった。何か負けた気分。むかついてきたから後で椿に八つ当たりでもしてすっきりしよう。

「あれってなんなのかしらね」
「さあ、私は私に被害がなければどうでもいいわ。それよりも私はニュースであれの付近から出てる雑音の話しが出ないことが不思議なんだけど」
「…雑音?」

おそらくもう4つ目ぐらいのサンドウィッチを何の躊躇もなく口に運びながら、無表情で首をかしげる柚葉。
その顔は疑問をあらわしているのか読み取りにくいけど、なんとなく雰囲気で「何それ」と言いたいのが伝わってきた。

それに、私が怪訝な顔をしてしまう。

「するでしょ、雑音」
「しなかったわよ」
「…………」
「空耳じゃないの?」

何度か近くに行ったことはあったが、その度に同じような雑音はしていた。知らない国の人間の声みたいだったり動物の叫びみたいだったり、機械音っぽかったり、色々な物が入り混じった雑音。
空耳にしては入り混じりすぎているものだった。

それが近くに行ったとき必ずするから全員聞こえている物だと思っていたし、よくわからない空間だからよくわからない音がしてもおかしくないと思っていて、誰にも言ってなかったけど、まさか聞こえてないなんて。

「………ごちそうさま」
「お粗末様。もう少し食べて欲しかったけど」

そう言ってくる柚葉の言葉を無視して、部屋に戻る。

………ああ、知りたくもないよく分からない事実を知ってしまった。

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