隣に安室さん(前)
改めて振り返る。重大なことが起こった。安室さんに、私のファーストキスが奪われてしまった。あのようなイケメンが私なんぞの唇を食んだところで何ともないだろうが、私としては超黒歴史なのだ。うっかりしていたため、初めて二人きりになってしまった。蘭は毛利先生のCM撮影の付き添いで外出。更には頼みの綱の工藤くんまでキャンプで不在のため、何も知らずにのこのこと探偵事務所に来た私は、留守番の安室さんと二人きりになったのだ。キスされてから工藤くんが助けに来て、正直遅いよ!と思ったが、どうやらキャンプを早く切り上げてまで助けに来てくれたので文句はいえない。
ただし、本堂くんと結ばれることを信じて純潔を守ってきた私にとっては大事件である。まあ、本堂くんは蘭のことが好きだから私の想いが報われるかと言えばそうではないが。
「でも、あの日私、帰ってから、涙、止まらなくて」
「…おん」
「ただ悲しくて、好きな人にあげたかった。ファーストキスが…」
「あんな、お嬢」
「初恋は報われないって本当で」
「オイ話聞けや」
「本堂くん…会いたいな…」
「あかん全く話通じひん」
「どうしよう服部氏」
悩んだところで西の高校生探偵の服部氏に相談なう。工藤くんはこんな相談持ち込むと嫌そうな顔をするし、蘭や園ちゃんは安室さんの話をしてくるから却下。灰原ちゃんや博士には自重して、和葉ちゃんに話してみたいけれどお生憎さまそんなに親しくない。消去法で残ったのは服部氏だけなのだ。
「お嬢がうじうじするんは珍しいな」
「リア充め…」
「は?」
「服部氏はリア充だもんね」
「お前話聞いとんか。オレは心配しとんやぞ」
「あ、心配してくれてるんだ…ありがとう。その乙女心を察知するアンテナを和葉ちゃんに向けたげて」
「…工藤が言うとった通り、お嬢は会話ができんな」
私の頭の中は本堂くんへの想いでいっぱいだ。ちなみにいうと、ここはポアロの私の定位置の席。今日は工藤くんに会いにたまたま遊びに来ていた服部氏を2階から拉致しました。ドッキリさせようと内緒で来るから、工藤くんがキャンプの時とかぶるという事態を起こすんだよ。
「あ、梓さん、アイスティーを1つ追加お願いします」
「かしこまりました!ね、この子、名前ちゃんの彼氏?」
「んなわけあるかいな」
「服部氏は悩める相談相手。ちなみに彼女持ちですよ彼は」
「俺に彼女はおらんけどな!」
「出たよ無自覚…」
「今日安室さん出勤じゃなくてよかったね!浮気?ってなっちゃうから」
出た、梓さんの妄想トーク。この店の人達は、どうやら私と安室さんをくっつけたいみたいだ。正面に座っている服部氏がははーん?と探るような目で見てくる。やめてくれ。今本堂くんの話をしていたばかりじゃないか。