嫌いを好きにする方法 | ナノ

噂の安室さん(中)

「いらっしゃいませ!」

「あ…こんにちは、安室さん」

「こんにちは。今日も蘭さん待ちですか?」

「そうですね。私がここに来るのは蘭待ちと梓さんの笑顔のためなんですよ」

「そうなんですか…でも残念だ、今日は榎本さんお休みなんですよ」

「……そ、そうですか」


安室さんに接触して早数日。身近に潜む敵っぽい人だと思えば、案外普通の人だった。私が元いた世界では、安室さんは悪いヤツっぽかったけど、別にただ単にいい人だと思う。まあ、表の顔しか知らないけど。


「(それにしても、話続かない…いや、続かなくていいけど。でも安室さんどこに行くもなく目の前に立ってるし、気まず…)」

「僕は土曜日は毛利先生のために1日使いますから、ぜひ遊びに来てください」

「はあ…蘭がいたら行きますね。蘭がいないとなんだか居たたまれなくて」

「よかったら僕が高校の勉強を手伝いますよ」

「えっ…結構です…」

「ああ、貴女は優しいですね。助手の心配は無用です」

「はい?え、いや勘ちが」

「毛利先生なら事件が起こっても解決されますし、助手って言っても僕は見学か雑用なんです」


聞く耳をもたない安室さんはいつものことだと思い留まらせる。しかし彼の言う助手、それはもはやただのパシリである。それをこんなにポジティヴに捉えられるなんて、なんて頭がハッピーなんだろう。いやむしろその向上心が切れ者な安室さんの演技かもだし…なんだこのパラドックス。


「僕も基礎知識として、高校の勉強を復習したいですし!貴女も僕も得をする、まさに一石二鳥でしょう?」

「な、なんか理論がむちゃくちゃじゃないですか…?」

「じゃあストレートに言いますね、僕は貴女と二人の時間を作りたい」

「なぜに…というか、毛利先生やコナンくんもいますし、少なくとも二人きりではないですよね」

「ふむ…」


黙り込んだ安室さん。残念なイケメンって多分安室さんのことだと思う。この人って確か元(?)警察官だよね。うん、日本の警察大丈夫かな。


「とにかく、勉強しましょう。毛利先生も喜んでくれるはずです」

「なんで先生が喜んでくれるのかは解りかねますが…土曜日、行きますけどコナンくんに用もありますし、機会があれば、勉強にしましょう」

「ふふ、照れるのも無理ありません。他人から見られると恥ずかしいですからね」

「は?」

「これも大丈夫ですよ、先生も事情はわかってくださいますから。コナン君も賢いですから、空気を読んで退室してくれますよ」

「まず安室さんの脳内がウエイターの勤務からログアウトしてますよ」

「面白いジョークですね」


店長さんがにこやかに私と安室さんのやり取りを見ているのがチラチラと目に入る。いや違うんです店長、いえ、マスター!梓さんではあるまいし、全然微笑ましい会話じゃないんですって。

今の時間は大体私一人で(たまにマダムやお兄さんがいる)、あと一時間もすると私が事務所に行く代わりに、ディナーを取るお客さんが現れるのだ。すなわち今お店にいる客は私一人。安室さんも勤務中なので立ったままだが、彼は“私(客)と話す”という喫茶店ならではのウエイターの役目を果たしている。


「店長さんは僕と貴女の逢瀬を楽しみにしてるんです。これも仕事でありながら、店長孝行になるんですよ」


逢瀬って…店長さん、2m先のカウンターでニヤニヤされてますけど。というか、不本意だけど逢瀬って二人きりですよね。+αで店長さんいますから逢瀬じゃないですよね。ベガとアルタイルにもデネブがいるってそういうことか。リア充爆発しろではなく見守る天使なのか。…じゃなくて、そもそも店長孝行って何ですか。
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