02  




名前はいつも決まった夢を見る、物心ついた日からいつも同じ夢を見るのだ。
暗くて広い空間で目の前に茨がある、その茨は四角く空間を囲うように巻きつけられている、そしてその空間からあるヴィジョンが流れる。
ヴジョンから流れるのは心優しい男と、残虐非道な吸血鬼の話だったり
その男と吸血鬼の死後の話もでてくる…確か、ジョセフと柱の男とかいうやつ。
それと自分の過去だったり、よくわからないが自分の未来の姿まで見えたりする。
これは予知夢ってやつなのだろう、みるのはは未来に起きる“自分にとって重要な事柄”だ。それはテストの解答や明日の献立なんかじゃあない、
例えば車に引かれたり、何かの事件に巻き込まれたりという自分の人生に大きな影響を及ぼすものだ。
それらのヴィジョンをやたら高級そうな椅子に座って眺めるのだ。


『こんばんは』

そしていつも決まって現れるのはこの男、ジョナサン・ジョースター。
彼は心優しい男と吸血鬼の話に出てくるお話の主人公で。何故かいつも現れる
最初は何故このお話の主人公が自分の前に現れるのかと思っていたが
しばらくして「これは夢だから」と思うことで納得する。
夢ならばどんなに不思議なことも自分と関わりがないこともなんでもありなのだ

「聞いておくれよジョジョ」
『なんだい?』
「今日とんでもないやつに会ったんだ、食い逃げだぜ?
あれは絶対に甘やかして育てられた甘ちゃんなヤツだぜ」
『こら、名前。また言葉遣いが汚くなっているよ』
「…ふん。ついプッツンしちまうとつい昔の言葉遣いが出てしまうんだ
もうこれはしょうがないよ」

名前は幼少の頃、いつもジョナサンに言葉遣いを注意されていた。
その頃はこいつをうるさいうるさいと思っていたが、
話してみると思ったよりも愉快な奴で、仲良くなるのにそう時間はかからなかったような気がする。

『君は僕以外にはいつも怒っているじゃあないか』

愚痴をこぼしたら逆に自分が怒られてやや不機嫌になってしまう名前。
しかも図星をつかれて反論もできなくなってしまう
確かに名前はこの人以外に心を開いたことはなかった。

『僕は君に女の子らしくなってほしいんだよ』
「君がうるさくいうから努力したじゃあないか」
『うるさくって…酷いなぁ
しかもそれは女の子じゃなくて、なんだか素敵なイギリス紳士の口調だ』

それはしょうがないことだ、名前は人とあまり関わりをもたない。
だから自分がこれまでに深く関わった人間。つまりジョナサンから口調を学んだ結果、
紳士的な口調が身に着いてしまった。

『はぁ…。僕は世の女性はエリナのような淑女ばかりだと思っていたよ』
「それは残念だったなジョジョォ」

クククと笑う名前の姿をとても懐かしそうな眼差しでジョナサンは見つめる。
名前もそれは同じだった、ジョナサンは不思議と話しているとなんだか懐かしいような、帰りたいような気分にさせられる。
昔から私はこの男に助けられた、もちろん夢だから物理的にではなく精神面の話だが。
奇妙な友情…いやそれ以上に物心ついたときからいるため親の愛情に似たようなものをこのジョナサンに持っている。

『本当に君は彼に似ているよ』

懐かしそうに、悲しそうに彼はそう言う。
それは今回初めてことではなく、少なくはない頻度でこの台詞を言う。
誰に似ているのか聞いたことがあるが、ジョナサンは『いずれ分かる。』と言うだけだ。
少し重い空気に耐え兼ねて茨のヴィジョンを見る、
最初の方は見逃してしまったらしいがなんだか保健室で他校の男とどこかで見たことのある男が変な幽霊みたいなもので戦っているじゃあないか。
しかもこの保健室はうちの学校の保健室だ、
だとするとこれは「未来のヴィジョン」。
でもそれだと一つおかしいことがある、名前の未来のヴィジョンのはずなのに当の名前はこの場にいないじゃあないか。

「これは未来のヴィジョンだろう?何故私の姿がないんだ」

いつも見る未来のヴィジョンはいつも名前が映っている、
名前の未来のことなのだから当たり前と言えば当たり前だが。

『未来のヴィジョンは“君にとって重要な事柄”に関すること、
今まではその時に偶然君がいただけなんだ。』
「ふーん」

特に興味もなかった名前はふーん、と愛想のない返事をする。
まぁつまり近々うちの学校の保健室で厄介事が起きるということか、
ならばそこに近寄らなけりゃいいだけの話さ。
特にそヴィジョンも見もしないで楽観的に考える。

『もうすぐ真相が近づいてくる』
「…?、どういう意味だい」
『ふふ、今日のお喋りはもうおしまいだ。君の場所へお帰り』

言葉の意味を訪ねても、彼は答える気はないらしく
この夢の時間の終わりを告げる。
名前はそう言われた瞬間、意識が遠のくのを感じた。いや夢から目覚めようとしているのだから遠のいているのではなく逆に意識が戻ってくる瞬間というべきか
これももう慣れた感覚となっていて、また明日にでもこの感覚を味わうことになるのだろう。

『じゃあ、またね。』
「あぁ、また」

目覚めるとボロいアパートの敷布団の中。
ガタガタと立てつけの悪い窓は少しの風で音をたててしまう、
二度寝をする気にもなれないのでキッチンへ歯を磨きにのそっと布団から出た。

「私の場所は、もうないのに。」

出来ればあのまま夢の世界でジョナサンと暮らしたいな、
そう思いながらも名前は歯を磨いて仏壇に挨拶をする。

「おはようございます。父様、母様」


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