01  




駅から徒歩5分のファミリーレストラン。
味も普通、量も普通、値段も普通…
そんな特にパッとしないファミレスで働いている苗字名前。
外国の血が入っているのか黒髪であるが瞳は琥珀色でそれなりの高長身である。

従業員もまともだし家からも近いが。一つ、この仕事場に不満点を挙げるとしたら給料が普通かそれ以下なのだ。
あーあ、もっといい給料が出るところで働こうかなぁ。と思いながら38番のテーブルへラザニアとサラダを運ぶ。
注文票を手にしながら「お待たせしましたー。」と上辺だけの笑顔を浮かべ商品をテーブルに置く、客は不思議な学ランに身を包み室内でも帽子を取らないというスタイルらしい。
少し変な客だな、とは思ったが名前は大人しく仕事に戻った。
しかしあの客、食べるときでも帽子を外さないのだろうかと気になりチラリとあの客の様子を伺う。
すると何ということだろうか、あの客商品を一口食っただけで代金も払わず店を出て行こうとしているじゃあないか。
これを見逃してはいけないと2mはあろうかというその学生の肩をぐっと掴み、奴の歩行を止める。

「お客様、レジはこちらですよ。
そっちはドアです、ドア。わかりますか?」

少し皮肉を込めて注意するも、この男はどうも聞く気がないらしい。
鬱陶しそうに名前の手を払いのけまた歩みを進める

「…こっちが優しく丁重に、わかりやすく説明してやったのによお…。
おい!聞いているのかッ!!」
「……。」
「このマヌケがぁ…ッ」

名前は一度プッツンしてしまうと後先考えない性格をしている、
しかもたちの悪いことに口も素行も悪くなるんだからたまったもんじゃあない。
名前は拳に怒りを込め、物凄いスピードで承太郎に向かい拳を繰り出す、
だが男は眉ひとつ動かさず、スルリと避けられてしまう。
拳は虚しくも空中を舞い風を斬る音しかしない。けれど、あのスカした野郎に一発でも喰らわせないと気が済まない名前は、「コォォォ」というおかしな呼吸をしたかと思えば今度は男に向かい蹴りをかましてきた、だがそれも軽々と男は受け止めた。
男は威勢だけ強くてこれほどの攻撃しかできないのかと優陽をジロリと睨むが、
なにがおかしいのか名前はにやりと唇に笑みが漏れた。
その瞬間、ビリリッと名前の足から電撃のような衝撃が伝わり男の全身を巡った、
全身が痺れたような感覚に襲われ、男は奇しくも地に膝を付けてしまう。

「…今のおかしな力はなんだ。」
「波紋の呼吸だよ。これを喰らった奴は一か月はポックリなんだがなァ」

こちらを睨む男の目の前で名前は腕を組み、口の端を片方だけ上げて憎たらしい笑顔をしてみせる。
男に膝をつかせた達成感からか、大層気分よく男を見ていると一瞬。たった一瞬だけ男にダブってもう一人の男が見えたきがした。そう、漫画なんかでよくみる霊に憑りつかれた描写とよく似ていたが、たった一瞬の出来事だったため目を擦りながら見間違いと自己解決した。

「マヌケなお前にもう一度言ってやるよ…。代金を払え」

男に指を力強く指し、ジトリと男を睨みかえす。
しばらく睨みあったままでいると、「コラァー!!!」という店長の声。
大方他の店員が呼んだのだろう…。マズイ、と思った頃には時すでに遅く、
店長に勢いよく襟を掴みかかられ、怒鳴り声を浴びる羽目となってしまう。
違うんだ、食い逃げがいたんだと男を指さそうとするものの男の姿はもう消えていてしまっていた…。
散々説教をされ、結局バイトはクビ。
忌々しい気持ちを小石に置き換え軽く蹴ってやると、それはコロコロと豪華な和風の屋敷の前まで転がっていく。

「フン…。」

あぁ、またムカついてきた。
いいよな、金持ちはこんな屋敷に住めてバイトなんかしなくても美味しい飯が食えて暖かい寝床があって。
ぐぅと鳴るお腹を抑えながら名前は暗い帰り道をとぼとぼ歩いた。


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