【 後日談2 】

「ねえシカク、ちょっと奥さんに会わせてくれないかい?」
「ミナトてめぇ俺の嫁さんに何するつもりだ」

俺のお願いに対してシカクは全力で眉間にしわを寄せなんとも失礼な返答をした。こいつは俺が本気で友人の奥さんに手を出すと思っているのだろうか。だとしたらとても心外だ。

「ナマエが最近ひどいつわりでさ、どうしたらいいかわからなくて。できれば経験者に意見を聞きたくてさ」
「ああ、そういうことか」

シカクはやっと納得した様子で、帰りにうちに来るか?と提案してくれた。ナマエは通院の日だから、あっちにはカカシが着いているし多少遅くなっても大丈夫だろう。

「あ、四代目!いらっしゃい」
「すみません大変な時に。お邪魔します。」

シカクの家に着くと、ナマエより幾分大きなお腹を抱えたヨシノさんが出てきた。彼女はすでに安定期を迎えているようでつわりは治まっているそうだ。お茶を出してくれたヨシノさんに礼を言い、本題に入る。

「ナマエのつわりが酷くて毎日すごくツラそうなんだけど、俺は何もできなくて…。妊婦さんの立場からこうしてくれると嬉しい、とかあったら教えて欲しいなあと思いまして」
「まあ殊勝な旦那様だこと…!」
「オイオイなんで俺をみるんだよ。」

シカクはヨシノさんの視線に耐え切れなかったのか、バツの悪そうな顔をして早々に席を外してしまった。そんなシカクの後ろ姿をしばらく眺めたあとヨシノさんは、ふふふと笑って話し始めた。

「四代目がそうやって考えてくれてるだけで、ナマエにとっては有難いことだと思います。あの人もあんな感じだけどなんだかんだ言って普段より早く帰ってきてくれたり、慣れない家事を手伝ってくれたりしてたんですよ」
「俺はナマエにツライ思いさせるばかりで何もできなくて」
「んーん。ナマエはいつも幸せそうですよ。四代目と一緒にいる時間が何より楽しいって前に言ってましたから」

ーーーだから、難しいとは思うけど、できるだけそばに居てあげられたら…それだけでナマエの気持ちは晴れると思うんです。
そう言ってお腹をさすりながら笑うヨシノさん。きっと彼女はシカクがそばにいてくれた時間が何より大切だったのだろうな。
俺がナマエにしてあげられることはそれくらいなのだろう。だったら、今以上に出来るだけそばにいてあげたい。

見送りに出てきてくれたシカクとヨシノさんに礼を言い我が家に足を向けた。玄関をあければたちまち良い匂いがした。ん、なんの味噌汁かな?

「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
「四代目、おかえりなさい」

当然のように我が家の食卓を囲んでいるカカシに苦笑いが溢れる。まあ病院に付き添ってくれた礼にとナマエが誘ったのだろう。今ミナトの分よそってくるね、と台所へ向かったナマエの後ろ姿を目で追っていると、苦しそうな声が聞こえた。ああ…つわりが、

咄嗟に立ち上がろうとしたカカシを制してナマエの元へ向かう。背中をさすりながら大丈夫かと問えば、申し訳なさそうな顔をするものだからいたたまれない。

「ごめんね、すぐ用意するから」
「ん。これくらい自分で出来るから大丈夫だよ。ナマエはご飯食べたのかい?」
「ううん。今日はちょっと…」
「果物だったら食べられるんだったよね。俺何か買ってこようか?」
「やだ、こんな時間に火影が買物に出てるなんてどんな嫁だって言われるわよ」
「四代目は愛妻家だと言われる、の間違いだよ」
「あの、俺が行きましょうか?」
「え!ダメだよカカシくんはお客さんなのに!」

三人とも譲らず言い合いというかなんというか、誰が買物に行くかと終わりのない話し合いを続けていると、ナマエがプッと吹き出した。

「ふふ、ありがとう二人とも。大丈夫だから。もう少し落ち着いたらちゃんとご飯食べるから。ね?座ってご飯食べて。冷えちゃうよ」
「でも、」
「気持ちだけで十分だから」

そう言ってナマエが笑うもんだから、カカシと目を見合わせて一緒に席についてナマエが作ってくれたご飯を食べることにした。んー、やっぱり俺には何も出来ないんだなあ…。