【 2-17 】

あれから丸一日があっという間に過ぎた。

いくらナマエの意識が戻らなくても俺は火影としての仕事はこなさなくてはならないため、名残惜しいが火影室に戻り書類に目を向けた。
ただ、俺の弟子であり右腕であり、何より信頼できるカカシだけはナマエの病室に残してきた。何かあった時に彼がナマエの傍にいてくれれば心強い。

里に舞い込んでくるたくさんの依頼をランクごとに振り分け、任務を与える。各所の大名の相手もしなければならないし、里同士の争いにも目を向けなければならない。やらなきゃいけないことはたくさんあるのに、一日中ナマエのことが気になって結局手が付かないといった状況だ。…こんなとき、頼れる仲間がたくさんいて本当にありがたい思う。俺の代わりに指揮をとってくれている同期のみんなには頭が上がらない。

「ここはやっとくから、お前はナマエのとこにいってこい」
「すまない…今度たっぷりお礼させてもらうよ」
「ああ、期待してるぜ」
「ありがとう。いってくるよ」

したり顔のシカクに礼を言い、瞬身の術でナマエの病室に飛んだ。

病室につくと、カカシがナマエのベッドに突っ伏して眠っていた。彼も気を張ってナマエを見ていてくれたのだろう…ありがとう、カカシ。

「カカシ、起きて。風邪を引いてしまうよ」
「先生…?」
「ああ。俺が代わるから、君はゆっくり休んで。ありがとう」
「はい先生。先生も無理しないでください」
「ん、オッケー」

俺が笑顔を見せると、彼は眉を下げて少しだけ困ったように笑ったあと去っていった。

「ナマエ…」

手を握って名前を呼ぶと、少しだけ体がピクリと動いた気がした。

「ナマエ?聞こえてるの?」
「…っ…」
「ナマエ!」

微かだけど、ミナト、と聞こえた気がした。

「!!…っ…綱手様!!!!!」

ナマエが目を開いた。
咄嗟の出来事で何をしたら良いかわからず綱手様を呼んだ。近くで待機してくれていたらしい綱手様はナマエの病室に駆け込んでくると、すぐにナマエの容態を確認した。

「ナマエ、私が誰かわかるか」
「綱手様…どうして、私…」
「その話はあとだ。とりあえず色々と確認させてくれ」

何もすることができず病室でオロオロしていた俺は席を外すように言われ、渋々ではあるが病室を出た。再び俺が呼ばれるのはそれから十数分後。

「体力こそ落ちているが、命に別状はない。それとあの術だが、この里でも使用を禁ずる。破れば投獄されると思え。何故お前が助かったかについては…ミナト、説明してやれ。私は席を外す」
「恩にきます」

綱手様が病室を出たことにより、ナマエと二人きりになった。重苦しい沈黙を破ったのは意外にもナマエで。

「ミナト…無事でよかった」
「…君が自分の命を危険に晒してまで俺を助けようとしてくれたことには感謝しているよ、ありがとう。」
「うん」
「それでも…君にだけは…っ…こんなことして欲しくなかった!」

今回は俺が完全に死んだわけではなかったから、かろうじてナマエは助かったんだ。君が目覚めるまで、俺がどんなに不安だったか。ナマエのいない生活なんて考えられないし考えたくもなかった。君が存在しない世界なんて俺には何の意味もないんだ。

「って…一度君を置いていってしまった俺が言えることじゃないけど」
「ミナト…ごめんね。私あの時あなたが死んだと聞かされた時、何もできなかったことが心残りだった。辛かった。だから…」
「ん…今こうして君が生きて隣に居てくれることがこんなに幸せだなんて…」

ナマエを思いっきり抱きしめると、ナマエは堰を切ったように涙をこぼした。俺が無事でよかったと声を上げて泣くナマエの頭を撫でながら、これからもこの子だけは俺が守ろうと誓った。

「ミナト…っ…もう一度会えて良かった…」
「ああ…愛しているよ、ナマエ」
「うん…っ」
「これから先何があっても君のことは俺が守ると誓うよ。ナマエ…俺と結婚してくれないか?」
「私で…いいの…?」
「ん。君じゃなきゃダメなんだ」
「ありがとう…っ」

世界で一番愛しいナマエにキスを落とすと、彼女は涙で顔を濡らしながら笑った。