【 なつのおもいで 】
今日は木の葉の夏祭りだ。
毎年毎年警備担当になってしまうからナマエと一緒に行ったことは一度も無い。それが悔しかったから今年は火影様に頭を下げて祭の日に休みをもらった。
しかし皺寄せは必ずくるもので、昨日までの任務の嵐は凄まじかった。……今思い出しても苦笑いがでそうだ。
そんなことを思いながら二人分の浴衣を持ってナマエの家を訪ねる。
「ナマエー」
「あ、ミナト。どうしたのその浴衣」
「ん!君に似合うと思って買っちゃった!着てくれるよね?」
「本当?ありがとう。嬉しい」
二人分の浴衣を持ってきたはいいが、俺は着方を知らないのでナマエに着付けをしてもらう。
「あいたたた…帯締めすぎじゃない?」
「こんなもんでしょ」
「そうなの?結構苦しいんだけど…」
「はい完成!ちょっと待ってね、私も着るから」
俺の着付けを手際よく済ませたナマエは、自分の浴衣を持って寝室へと消えた。
んー、ドキドキするな。ナマエの浴衣姿なんて見たことないけど絶対可愛いに決まってる。
「ごめん、待った?」
「とっても可愛い!!」
軽く髪を結い上げてバッチリ浴衣を着こなす彼女は俺が想像していたよりも何倍も可愛くて、思わず抱き着かずにはいられなかった。
「どうしよう!可愛すぎてお祭行きたくなくなった…!」
「どうして?」
「こんな可愛いナマエの姿他の人に見せたくないよ…」
「えー、そんなこと言わずに連れて行って?ね、ミナト」
「う、」
俺の手を握って上目遣いで言ってくるナマエはズルい。確信犯だ。
「みて!ミナト!りんご飴!」
「ほんとだ!大きいね」
「美味しそうー!」
いつもは何処か他人事のように身の回りの出来事すら受け流すナマエが、自発的に俺の手を引いて、目を輝かせている。愛おしい。素直にそう思った。
「あんまりはしゃぐと転ぶよ?」
「な!…転ばないもん」
「ははっ!ナマエって意外とおっちょこちょいだからね。気をつけなよ」
「もう」
りんご飴をひとつ買って美味しい!と嬉しそうに笑うナマエ。今日はいつもと違うナマエをたくさん見ることができて俺も幸せだ。
「ミナト、来年…っていうのは難しいかもしれないけど、またいつか、一緒にお祭り来ようね」
「!……ん。もちろんだよ!」
「ミナトの浴衣姿、すっごく似合ってる」
「君の方が、とっても似合ってるよ。綺麗だ」
「…ありがとう」
りんご飴のように顔を真っ赤にしたナマエ。ああ、なんて可愛いんだ。
「ナマエ」
「んー?」
「花火が終わったら、すぐ帰ろうね」
「どうして?」
「周りの男たちが君のこと見てるのが気に食わない」
「周りの女の子達はあなたに夢中みたいよ?」
「俺はナマエにしか興味ないの!」
「ふふ、もったいないね」
「そんなことないよ。周りの奴らが羨むほど可愛いナマエを独り占めできるんだから」
「いつからそんなにお世辞上手になったのかなー」
「お世辞なんかじゃない」
本当に美しいから、可愛いから、愛おしいから言ってるんだ。いつも俺の言葉をのらりくらりとかわして、中々信じてくれないナマエに俺の本気をわかってもらうにはどうしたらいいのか……。
ナマエに本気で振り向いて貰うのは、忍の道より極めるのは厳しいのかもしれない。