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番外編・ハロウィンの花嫁(安室)

喫茶ポアロ。今日は久しぶりに安室さんが店番をしているらしいので仕事帰りにふらりと寄った。梓さんとマスターはもう上がったらしい。

「しばらく連絡なかったから心配してたんですけど、安室さん……また?」
「またとは?」
「また巻き込まれてた系?大丈夫?」
「心配には及びませんよ」
「その綺麗な顔に傷付けないでくださいよ」
「顔じゃないならいいんですか?」
「ダメ。綺麗な体に傷も論外」
「へえ、綺麗な体ねえ…僕の体ご存じなんです?」
「ええよく存じてます。他に人がいないからって揶揄わないでよ。心配してるのに」
「悪い悪い。でもこの通り生きてる」
「生きてる…そうだね。」

いつも死と隣り合わせの零くんだが神は彼を見離さない。何度危ない目に遭っても必ず帰ってきてくれる。もう戻らない彼らとは違って。

「零くん……同期の人たちってどんなだった?」
「同期って?」
「萩原さんとか」
「そんなことも知ってるのか」
「ほんの少しね」
「僕以外、みんな優秀でいい奴ばかりだったよ」
「松田さんは?」
「なんで松田?」
「いや……」
「……なんだよ」
「シンプルに顔が好みだった」
「はあ?」
「しょうがないじゃん!女だもん!イケメンは総じて好きよ」
「確かにモテるやつだったよ。喧嘩っ早いけど」
「ううモテそう…でも絶対面食い…」
「それはそうだったな」
「抱かれてみたかった」
「あいつ面食いだぞ?」
「うわ、超失礼。じゃあ零くんはブス専?」
「んなわけあるか。松田とは好み被りまくりだった」
「じゃあ生きてたら…」
「やめろ。あいつと君がセックスするとか想像するだけで腹立つから」
「絶対テクニシャン」
「やめろ」
「タバコの香りがするスーツを玄関で受け取りたいしワイシャツにアイロンかけて帰りを待ちたい」
「ワイシャツにアイロンなら僕のをやればいいだろ」
「零くんのはまとめてクリーニングに持って行く」
「なんでたよ」

こうやって軽口を叩けるようになるまでにどれ程の時間を要したんだろう。考えるととても苦しくなってしまう。私なんて部外者でしかないのに。

「…名前?」
「つらいことあったら言ってね。いや言えないか…」
「心配してくれてる?」
「うん、まあ。でも…言いたくないこともあるよね」
「信じてくれるかはわからないけど、同期達の死は自分の中ではある程度消化してる。それに僕と君は秘密を持つもの同士、心置きなく自分を曝け出せているよ。いつもありがとう」
「やめてよ泣いちゃうじゃん」

目の前にそっと置かれたホットコーヒーを啜る。
零くんの優しさがカップに一緒に注がれているような味がしてやっぱり泣くのを我慢できなかった。


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