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番外編・ゼロの執行人(安室)

「東京サミット……こんなのあるんですね」
「ええ、人工島に新しくできた施設に、各国の要人が集まるそうですよ。大規模な交通規制もあるって回覧板に載ってました」
「大変そう」

サミットの件は、ポアロでコーヒーを戴いているときに梓さんから聞いた話だ。

この世界で何か新しい施設ができるときは、要注意だということを私は知っている。しかし東京サミットは私が知る範囲では行われていなかったはず。ということはこれは私の知識より先の物語なのだろうか。そうなればこれから先何が起こるかを予測することはできない為、周りの人たちに何も起こらなければいいなと願うことしかできない。

しかしサミットを目前にして、サミット会場になるはずだった施設で爆発が起こったり、その後も街のいたるところで不可解な爆発事故が起こったりと、心穏やかではない日が続いた。

きっと零くんも公安として事件に携わっているに違いない。彼が大きな怪我などしなければ良いけれど……と、そんな私の心配を他所に、零くんが事件の中枢でとても危険な目に遭っていたと知ったのは全てが終わったあとだった。

「連絡つかなくて心配してたのに、やっと繋がったと思ったらこんな大怪我してるなんてどうかしてる!」
「心配してくれたんだな」
「当たり前でしょ!」
「まあ、こうやって生きているわけだから…今回は大目に見てくれないか」
「見られるわけない」
「そんなに怒らないでくれよ、名前」

零くんから「今日と明日、予定がなければ家に来てくれないか」と書かれたメールが届いたのは二時間ほど前だ。とっくに日も暮れている時間で、こんな連絡は珍しいなと胸騒ぎを覚えながら家を訪ねた。衣服を脱ぎ捨て、ソファに横たわっていた零くんの体には、無数の傷がついていて、何か事件に巻き込まれていたであろうことは容易に想像ができた。

「応急処置は終わってるんだが…さすがに体を動かすのがつらくてな」
「そりゃそうでしょう」
「かといって部下に面倒を見てもらうわけにもいかないし」
「だから私を呼んだの」
「そんなに怒らないでくれよ、こういうことを頼めるのは名前しかいないんだ」

頼られるのは嬉しい、人に見せない部分を私にだけ見せてくれるのは嬉しい。だけど、こんな痛々しい姿はなるべく見たくない。

「惑星探査機が都内に落ちるはずだったって、それなのに何故か軌道が逸れて大事に至らなかったって。零くん、そんな危険なことに巻き込まれてたの?」
「仕事については口外しないよ。でも結果オーライ」
「零くんだけがこんなに大怪我して、何も知らなかった私は傷ひとつなく呑気に生きてる。そんなの変だよ」
「それでいいんだよ。俺は日本を守るために生きてるんだから」

思わず涙ぐむ私の頬に、傷だらけの零くんの手が触れる。

「別に私じゃなくてもいいから、零くんが国より優先できるような人がいたらいいのに」
「はは、それは無理な相談だ」
「だろうね。わかってたけど」
「今までの人生を否定したくはないし、これからもそうやって生きていくことに不満はない。ただこうやってたまに寄りかからせてくれる人がいればいいなと思う」
「贅沢だよ」
「そうだな。君を利用してる」
「でもその役目、他の人には譲りたくない」
「ああ、俺も君がいい」

頬に触れていた手にうなじを引き寄せられ、柔らかく優しく唇が重なった。


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