猫のような人だと思った。
自由気ままで、眠るのが好きで、気が向いたら少しだけ甘えてくれる彼は。
もはや八雲の自宅と化した部室のソファに二人並んで腰掛けていると、八雲の頭が私の肩に乗った。
「眠いの?」
「そうじゃない、ただ…」
八雲はそのまま私の首に腕をまわして甘えるように抱きついてきた。疲れたの?と声をかけると一度だけ控えめにコクンと頷いた。彼は優しいから色んなトラブルに顔を突っ込んでは解決へと導く手助けをする。涼しい顔をしてはいるが、八雲の赤い左目にかかる負担は私達の想像以上に大きなものなのだ。
「八雲、」
「ん」
私の胸にすり寄ってくる八雲は本物の猫のようだ。
「甘いもの食べに行こうか」
「んー…」
「いや?」
「嫌ではない、でも…」
「ん?」
「しばらく、」
「うん」
「…このままがいい」
「ふふ、わかった」
私が笑ってみせると八雲は一瞬ムッとした顔をして、私の唇を奪った。私が驚いた顔をすると満足そうに笑ってもう一度胸に顔を埋めた。この猫は愛情表現も自由気ままなのだ。
今日は珍しく甘えてくれるこの猫を、とことん甘やかしてやろうと静かに決意をした。
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