別に何か大きなミスをしたわけではない。ちょっとした人間関係のいざこざに巻き込まれて職場が嫌になった、…それだけ。
「よお、珍しいな。お前が池袋に来るなんて」
「静雄…」
静雄の横にはお決まりのようにトムさんもいたが、そんなことを気にする余裕もなく真正面からギューっと思いきり抱きついた。そんな私を軽く受け止め頭を撫でながら静雄は優しく尋ねる。
「なんか嫌なことでもあったか?」
「んーん」
「はは、何かあったろ」
トムさんが俺邪魔だから帰んべ、と言っていた気がしたが…そんな気遣いにお礼も言えないくらい私は弱っていた。
「名前〜…あんま溜め込むなって言ってんだろ」
「んー」
「限界来る前に発散しろって」
「んー…」
「聞いてんのか?」
「んー?」
「はは、ダメだこりゃ」
静雄は首にしがみついたままの私を軽く抱き上げると、さっきよりも強く抱きしめた。私の髪に唇をくっつけて話すもんだから少しくすぐったい。
「俺はさ、」
「うん」
「何があってもお前の味方だし、」
「うん」
「お前のことが好きだ」
「…うん」
「つらくなった時、真っ先に俺を頼ってくれるのも…何か嬉しいし」
「…うん」
「だからさ、これからも…真っ先に俺ん所にこいよ」
「うん…っ」
静雄のぶっきらぼうだけど大きな愛が私を癒してくれた。静雄が私のために目一杯力を加減して抱きしめてくれる、そんな静雄の愛が嬉しかった。
「静雄…」
「ん?」
「…大好き」
「はは、知ってる」
私はいつになったら静雄の手加減なしの全力の愛を受け取ることが出来るだろうか。
「…今夜にでも試してみるか。名前さえよけりゃ俺はいつだって良いんだぜ?」
…今夜は腰砕け決定かな。
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