天才の相棒

「ねぇ、高尾くんってバスケ上手いの?」
「上手いか下手かは置いておくとして、あいつはバスケにおいてきちんと人事を尽くしているのだよ」
「へぇ」

文武両道の秀徳の中でも、バスケ部はいつも好成績を残している。特に同じクラスの緑間くんはバスケの名門帝光中学校出身で、その中でも特に天才たちが集まる学年でキセキの世代とまで呼ばれたすごい人らしい。

そんな緑間くんといっつも一緒にいる高尾くんはクラスの中でもかなり賑やかな人で、何故この堅物緑間くんと一緒にいるのかよくわからない。

「おい貴様今俺のことを堅物呼ばわりしただろう」
「え、嘘、心の声聞こえちゃった?」
「全部口に出ていたのだよ」
「本当に?恥ずかしい」

四限目の授業が終わって、昼休みが始まったばかりでざわついている教室の中。恐らくもうじき日直だった高尾くんが先生の荷物持ちという大役を終えて戻ってくる頃合いだ。

「真ちゃーん!飯食おうぜ!!」
「お前はいちいちうるさいのだよ」

緑間くんが迷惑そうに言いながらもちゃっかり高尾くんの帰りを待っていたことを私は知っている。本当に仲が良いなあ、この二人は。

「なになに、名前ちゃん何の話??」
「んー高尾くんの話」
「それなら真ちゃんに聞かなくても俺に直接聞いてくれたら良いのに。全部教えるぜ?身長体重スリーサイズ、あと好きな体位とか」
「それはセクハラだよ」
「体位とはなんだ、高尾」
「真ちゃんにはまだ早ぇーよ」

セクハラ発言が吹き飛んでしまうくらいニカッと星が飛びそうなくらいの眩しい顔で笑う高尾くん。実は密かにこの笑顔のファンだったりもする。

「名前ちゃんも一緒に飯食う?」
「いいの?」
「俺はいいぜ、な?真ちゃんもいいだろ?」
「構わん」
「ほらほらお弁当持ってきな」
「うん、ありがとう」

学食に行っている子の机を借りて高尾くんの机に寄せる。緑間くんって美人顔だなと思っていたけど高尾くんもかなり美人顔だ。男子二人より顔面偏差値の低い私って…。

「名前ちゃんはどうして俺のこと真ちゃんに聞いてんの?」
「うーん、なんていうか、緑間くんと高尾くんって真逆な感じがするじゃない」
「そお?」
「緑間くんは物静かだけど高尾くんいつもテンション高いし。正反対なのにいつも一緒にいるから不思議」
「そうだなぁー、俺と真ちゃんって相棒だから」
「相棒?」
「勝手なことを言うんじゃないのだよ」
「今度の試合観に来てよ。そしたらわかると思うぜ?俺と真ちゃんの息ピッタリ具合が」
「高尾くんもレギュラーだもんね、すごいなぁ」
「名前ちゃんが応援してくれたら俺すっげぇ頑張っちゃうかも」
「そんな不純な動機で試合に臨むものではないのだよ高尾」
「でも俺名前ちゃんが来てくれたら嬉しいし」
「わ、わかったよ、行くから」
「マジ!?言ってみるもんだな!」

キラキラと本当に星が飛びそうなくらいの笑顔。
眩しすぎるよ高尾くん…!

「お前たち、いい加減その不毛な探り合いをやめたらどうだ」
「「え?」」
「お互い好意を抱いているのであれば素直に告げたらいいと言っているのだよ」

緑間くんは素知らぬ顔で自分のお弁当箱から優雅におかずを口に運んでいるが、私と高尾くんはお互い真っ赤になった顔を見つめ合ったままフリーズしていた。

「どうしたんだ、二人とも。早く食わねば昼休みが終わってしまうぞ」
「いや…さすが真ちゃんだわ」
「なにがだ」
「いや、なんでもねぇ」
「おかしなやつなのだよまったく」
「とりあえず飯食おうぜ、名前ちゃん」
「は、はい」
「なにその返事、緊張してんの?」
「そりゃするよ!高尾くん何で普通なの!?」
「いや俺これでも緊張してるぜ?」
「全然そうは見えない…」
「とりあえず、飯食ってからまた話そ」

高尾くんはまたニカッと笑ってお弁当を食べ始めた。

綺麗な手。お箸の持ち方も綺麗だし、きっときちんとした教育を受けて来たんだろうなぁ。面倒見がいいから、弟か妹がいるのかも。

「そんなに見られたらもっと緊張する」
「ごめんっ!」
「名前ちゃんみたいに可愛い子だったら大歓迎だけど〜」
「お調子者なんだから…」
「俺は席を外すのだよ」
「げ!真ちゃんもう食べ終わったのかよ!」
「居心地が最悪なのだよ」
「ったくよお…」

表情がコロコロ変わって、本当に愉快な人。

「あ、なに笑ってんの?」
「高尾くんと毎日一緒にいられて、緑間くんは楽しいだろうなって思って」
「なら名前ちゃんも試してみる?」
「え?」
「俺とずっと一緒にいる?」
「え、いや、それは…緑間くんに悪いよ」
「ここで他の男の名前とか…」
「うわ!違う、違わないんだけど、その」
「冗談だって、まあその、俺らお互い思ってることは一緒なんだろうし、これからね?もっと仲良くできれば…良いなぁとか思っちゃったり」
「うん、そうだね」
「とりあえず、今度の試合観に来てよね」
「絶対行くよ」
「俺超カッコいいからさ」
「楽しみ」

週末、この約束を果たすために試合会場に足を運んだ私は、想像以上の高尾くんのかっこよさに面食らってしまった。なにあれ、どうなってるわけ?緑間くんは噂通りすごいんだけど…なんていうか、高尾くんがこんなにすごい人だなんて知らなかった。

「名前ちゃん!観てた!?」
「うん!すごくカッコよかった!」
「あはは!俺ら付き合う?」
「そうする!」

試合後、ギャラリーにいた私を見つけてそう言ってくれた高尾くんに笑顔で頷いた。緑間くんはやれやれという顔をしていて、金髪の先輩はどこから取り出したのかわからないパイナップルを高尾くんめがけて投げつけていた。一見真面目そうな秀徳のバスケ部は予想に反してとても賑やかだった。

これは後から聞いた話なのだが、秀徳に入学して数ヶ月、私と高尾くんはお互いのことをずっと緑間くんに聞いていたらしい。「あれほど好意を向け合っているのに気づかない方がどうかしている。間に挟まれる俺の身にもなれ」とおは朝占いのラッキーアイテムのたぬきの信楽焼を抱えた緑間くんにうんざりした顔で言われ、今度二人でラッキーアイテムの調達の手伝いをすることを決めた。

「名前ちゃん結局俺のことをどのくらいわかった?」
「緑間くんの唯一無二の相棒ってこと」
「それだけ!?」
「あとは身長体重スリーサイズと好きな体位」
「んっふっふ〜、最後のそれは名前ちゃんも一緒でしょ?」
「いや、その、」
「結局体位とは何のことなのだよ」
「だから真ちゃんにはまだ早いの!」

ムスッとした緑間くんには大変申し訳ないのだけれどらその話については私がいないところでしてもらいたいものだ。


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