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「#幼馴染」のBL小説を読む
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終電には乗りません

一時的に仕事から解放され、これから週末=休みを迎えるということでなんとなくソワソワする金曜日の夜。そんな浮わついた夜にこうして会社の取引先の土方さんと居酒屋に入るのはもう何度目だろうか。きっと私たちは、自惚れなんかではなく同じ気持ちでいるだろう。だけれどたった一歩足を進めるためのキッカケが見つけられないでいた。

今日もいつも通り仕事の愚痴や私生活のこと、地元の話などを当たり障りなく、けれど気兼ねなく話した。今日こそはなにかと焦れば焦るほどなにも見つからず、結局いつものように“そろそろお開きにしましょうか”という話になってしまった。

ビールジョッキの外側の水滴がテーブルに小さな水たまりを作っていたが、土方さんは律儀にもそれをおしぼりでさっと拭った。空いたグラスや皿をテーブルの端に寄せ、忙しそうに駆け回る店員さんの手間を少しでも省こうとする彼は、元来生真面目で優しいのだろうなと思う。

会計を割り勘にしようと決めたのは私だ。その方が遠慮なくお酒を楽しめるし、奢ると言ってくれた彼に申し訳なさを抱くことなく次の約束ができると思ったからだ。

「今日はいつもより飲んでましたね」
「そうですかね」
「足元が、すこし」

遠慮がちに言う土方さんのうしろに見える街の灯りがやたら眩しく揺れているのは私が酔っているせいらしい。

「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」

大丈夫ではないと言えば家まで送ってくれますか?送り狼になっていただいても構いませんよ、なんて大胆なことを告げる勇気はなく。いつもより少しゆっくりとした足取りで駅までの道を進む私たち。

「珍しいですね、そんなに酔うなんて」
「そんなに酔ってます?」
「いつもよりは。泥酔とは言いませんけど」
「そんなに飲んだかなあ…覚えてないなあ」
「終電間に合いますか?」
「終電……」

ここから駅まではきっと二、三分で着く距離だ。
終電までは長く見積もっても十分ほど。
きっと間に合う、間に合うけれど今日は……。

「終電……間に合っても、乗らなくていいですか」
「え?」
「今日は、というか、ずっとなんですけど、一緒にいたいと言ったら困りますか?」

顔が熱い。頭の中が沸騰しそうだ。
土方さんは固まったまま口を開かない。
沈黙のまま地獄のような数秒間があって、ようやく彼の声が聞こえた。

「俺から誘うべきだった、と反省しています」
「反省ですか?」
「あなたに恥ずかしい思いをさせたなと」
「今も顔から火が出そうです」
「多分俺も同じくらい顔が赤いので見ないでください」

土方さんはそう言って、俯いたままの私のうなじをそっと胸へと引き寄せた。

「俺の家、ここから近いです」
「はい」
「一緒に来てくれますか」
「……はい」

私の全身が、今までに経験したことのない速さで脈打っている。そしてそれが伝染したように、彼の全身もドクドクと派手に脈打っていた。


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