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堰かれて募る恋の情

ーー月ーー日、正装で〇〇に来てくれとだけ言われ、副長の指示通りに指定の場所に向かう。到着してみると、そこはなんとも煌びやかな人たちで溢れていた。洋装か和装かだけでも確認しておいてよかったなと思いながら、些か心許ないドレスの胸元を押さえる。辺りを見渡してみても知り合いはおらず、結局のところあの人に会うまで詳細はわからないらしい。

「よォ、待たせたな」
「本当ですよ…!なんですか、ここ」
「結婚披露宴会場」
「はい?」
「下見にもちょうど良いだろ」
「はい!?」

副長が言うには、警察関係者の結婚披露宴が執り行われるらしい。本来ならば真選組の代表として近藤局長が招待されていたのだが、仕事の都合で参列が出来ないため、副長が代理出席をすることになったようだ。

「私いらなくないですか?」
「お前の顔を売りたいってのもあったからな」
「どういう意味で…?」
「虫除け」

副長はサラッとそう言い、慣れた様子で私の腰に手を添え歩き出した。この顔でこのスマートな振る舞いだ。あちらこちらから女性の視線が突き刺さるのは仕方がないと割り切るしかないのだが、やはりまだ慣れない。

「視線が痛いですね」
「それについてもお前を利用させてもらう」
「そうでしょうね。私としてもこれで言い寄ってくる女性が減るなら万々歳なんですけど」
「俺ァあんなのに興味ないんでな」

顔を寄せ合い小声で話していると、急に唇が触れ合った。いくらなんでもやりすぎではないかと思うが、そんな冗談も受け入れてしまうほど私は浮かれているし、それと同時に焦ってもいた。

こういう煌びやかな社交の場に慣れておらず、どうしても周りの女性と自分を比較して卑下してしまう私は、いつこの人を取られるのかと内心ずっとひやひやしているのだ。

「今日のドレスいいな」
「これですか?何年も前のだからちょっと若作り感が出ちゃってません?」
「いや、エロくて最高」
「確かにラインは出ちゃってますよね」
「胸の谷間も腰のラインも尻も全部いい」
「そうですか?」
「勃ちそう」
「ばかなの?」

この人本当に副長か…?と思ったが、滅多に見ないドレス姿に少しばかり興奮しているのは間違いないらしく、腰に添えられた手がなんとなくいやらしい動きをしている。

「こんなとこで盛ったってしませんからね」
「上の階の部屋取ってあるから披露宴終わったらな」
「随分と用意周到ですね」
「たまにゃいいだろ」

披露宴が始まるまではお互いにピタリと寄り添いあっていたのだが、乾杯の挨拶が終わり、ある程度自由な時間になってくるとそうもいかなくなる。

副長は真選組の代表代理として各所への挨拶まわりで大忙しだ。私も同行するときもあるが、必要がないときは自席で酔いすぎない程度の酒を飲んでいた。

一人になった途端に現れる酔っ払いの男はどうにかならないものか。副長は、私の存在を公にすることで虫除けをすると言っていたが、酔っ払い相手には中々それも通用しないらしい。第一に副長以上のかっこいい男なんて、この会場というか日本中を探してもいないので彼以外になびく予定もないため、この酔っ払いを適当にあしらうことはできる。早いところ手を打たなければ、こういう現場を副長に見られてしまうとかなり面倒なことになるのはわかりきったことだった。この会場にいるのはあくまでも警察関係者なのだから、トラブルだけは避けなければと思い切り抜けているうちになんとか披露宴は終わった。

「はあ…疲れた」
「お前今日何人に言い寄られた」
「酔っ払いの戯言ですから数えるだけ無駄かと」
「わかってねェなお前は…」
「なにがです?」
「お前が自分が思ってる以上にいい女だってことだよ。そろそろ自覚してくれねェと俺の心臓がもたねェだろうが」
「妬いてもらえるなら悪い気はしません」
「この性悪め」
「そんなことより部屋に行きましょうよ」
「ん、そうだな」
「私だって副長に言いよる女に嫉妬したんですから。早く抱いて欲しいです」
「そういうこと言われると勃つからやめろって」
「余裕がない副長ってかわいくて」
「かわいくねェ」
「早く行きましょう、…トシさん」

腕を絡めて胸を押し当てるとまたキスをされた。
翻弄されてばかりなのは癪なので、たまには翻弄する側になりたいと思ってふざけすぎた私は、豪華すぎるスイートルームを堪能する余裕もなく鳴かされ続けるのだった。


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