※史実ネタ
「寝てなくて良いんですか」
「…こんなに良い天気なんだ。勿体ねェだろ」
「だけど、」
「俺に指図するなとそう言ったんだ」
誰がこんな結末を予想することが出来ただろうか。先生を奪ったこの世界を壊し、俺たち侍の国を再建するまで倒れちゃいけねェこの俺が、病に負けるなど。
今まで…倒れた仲間を振り返ることもせず、ただひたすらに走り続けてきたというのに。全てを終わらせる時間さえ、天は与えちゃくれなかった。なんて非常な世だ。
最後まで俺について行くと縋り付いてきた仲間さえ切り捨てた。…だが、こいつだけは手放すことが出来なかった。
「…なァ、こんな不甲斐ない男の傍に居て楽しいか」
自分で縛りつけたくせに、
「こんな俺の姿を見てどう思う」
最後までかっこ付けていたいのに、
「俺はお前のために生きてやれねェ」
最期まで一緒に居たいのに。
子供をあやすように俺を後ろから抱き締め、頭を撫でる名前を振り払う力すらないなんて。
「もう…っ、刀も握れねェ…!」
この世で何よりも大切にしたい女を守ることさえ適わない、
「晋助さん、私はどんなになろうと貴方のことを愛し続けます。貴方が私のために生きてくれなくても構いません。その代わり、私が貴方のために生きるから…私の我儘を許して下さいね」
好いている、愛していると、伝える術を知らない自分の口が憎くて仕方ない。両目一杯に愛する女を焼き付けておきたいのに、どうして俺には左目がない。
木にとまっていた蝉がポトリと土に還った。俺の命が終わる気がした。
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