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一途な黒で溶かしてみせて

誰にも見つからないようにこっそりと船を降りるつもりだった。

「おい、どういうつもりだ」
「……どうして、」
「俺の質問に答えろ」
「……」

わからなくなった、というのが正直な気持ち。私は別にこの世界を破壊したいとか江戸を焼き尽くしたいとか考えたことはなかった。それでも高杉さんの傍にいたいと思っていたのは紛れもない事実なわけであって。

私が彼を唯一無二の存在だと思っていたように、彼もまたそうであれば良いだなんて。

高杉さんが夜中に帰ってくるときは、大抵お酒のにおいと女のにおいを纏わせていた。どういう状況でついたのかよくわからない首筋の紅にも気付かないフリをしてきた。どんなことがあっても最後に私のところに来てくれるならそれで良いと思っていた。

…いつからだろうか、その瞳に私だけ映してくれたら良いと思うようになったのは。

「高杉さん」
「あァ?」
「私はこれから先もあなたと一緒に過ごせたらどんなに幸せかと考えていました」
「だったらそうすりゃ良いだろう」
「だけど…私はきっとあなたの邪魔になってしまうから」
「どういう意味だ」
「あなたは鬼兵隊の総督として、隊のみんなから尊敬され愛されてる。高杉さんもそうでしょう?鬼兵隊を大切に思ってる」
「当り前だ」
「だから私はここを去るんです」
「…わかるように説明しろ」
「…たとえば、隊のみんなと私が同時に危機的状況に陥ったら…あなたはどっちを救いますか?」
「……状況による」
「そんな状況であっても…私だけを見てくれないと嫌なんです。高杉さんのその右目に映るのは私だけが良いなんて…馬鹿げてるでしょう?」
「…」
「私、あなたのことが好きだから邪魔したくないんです。…高杉さん、あなたの野望が叶う日を願っています。江戸を焼き払うときは…どうか私も一緒に消してくださいね」
「…馬鹿かお前ェは」
「はい?」
「俺は俺の野望が叶うまで、…いや、叶った後もお前を傍に置いておきてェ。お前は俺の野望が叶えば良いと思ってんだろ?ならお前はここに居ろ」
「…そんな嘘、」
「ひとつ良いこと教えてやろうか」
「なんですか」
「俺が自らこうやって抱きしめるのも接吻するのも、この世でお前ひとりだ」
「高杉さん…」
「俺ァ昔から独占欲が強くてねェ…お前なら殺してでも傍に置いておきてェと思う。…俺が恐ろしいか」
「私の独占欲だって人一倍ですよ。あなたの手で殺されるなら構いませんけどね」
「あぁ。お前が死ぬときは俺が殺してやるから安心して俺の傍に居ろ」
「高杉さんがそれを望んでくださるなら…私は死ぬまであなたと一緒に居る覚悟です」
「名前、俺が死ぬときはお前が俺を殺せ」

最高の口説き文句だと、そう思った。


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