人形

「晋助様、この娘どうするッスか」
「…俺が預かる」
「へ?」
「とりあえず俺の部屋に放り込んでおけ」
「は、はい!」

春雨のアホ提督の一件の後、わけのわからない天人に目をつけられることが多くなった。とは言え格下ばかりで相手にもならないのだが数が数だけに面倒くせぇ。いつもは俺が出なくても適当に終わる戦いだが、今日は万斉が出払っていた為に俺が出る羽目になった。…ったく、面倒くせェったらありゃしねェ。

俺の船に攻撃するなんざ、どんな阿呆な大将が率いているのか…興味本位で大将首を取りに行くと一人の女が監禁されていた。目は虚ろでどんな目に遭っていたかなど推測するには容易な格好だった。人間の女を凌辱して喜ぶとはバカな天人の考えそうなことだ。とりあえずそのバカで阿呆な大将首をさっさと取って女を解放した。…どこか見覚えのある面だ。

「おい、女。名は何と言う」
「…名前、」
「!…こっから逃がしてやる。命が惜しいなら俺に着いてきな」

名前と名乗った女は大した抵抗もせず俺に着いてきた。恐らく何でも言うことを聞くように調教されているのだろう。

「名前」
「はい」
「なんであの船にいた」
「…わかりません」
「いつからあの船にいる」
「何も…わからない」

この女は間違いなく攘夷戦争時代に俺らと行動を共にした名前だ。こいつはとても強く、そして美しかった。そんな名前がここまで別人のように弱りくさって記憶さえ封じ込めていようとは夢にも思うまい。名前は戦争の途中で消息不明になった。あれから何年経った?ずっとあの天人に好き勝手やられてたってことか。

「(……クソ)」
「高杉様、」
「チッ…んだよ」
「私…何をすればいいですか?なんでもします、なんでもできますから」
「何もしなくて良い、」
「…っ…何でも、するから…お願いします…殺さないで…っ」
「!」

仕事をしないと殺されると思っているのか。…泣けば殺されると思っているのか。名前が浮かべる笑みは誰がどう見ても不自然すぎる。

俺が名前に手を伸ばすと、名前は固く目を瞑った。…んな怯えんな、

――――ポン

「…え?」
「心配すんな、俺はお前を殺さないしここにいる連中もそうだ。泣きたいときは泣け、いいか。それがテメェの仕事だ」

驚いたように見開いた目から綺麗な滴が垂れた。不意に抱きしめた人形みたいな女には、ちゃんと人間らしい体温があってひどく安心した。


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