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スキー



いつものように突然のことではあるが、将軍の意向でスキーに行くことになった。

将軍の現れるところに万事屋ありという、お決まりのパターンのせいでスキー旅行はめちゃくちゃだ。将軍の身に何かあれば首が飛ぶ。それは職を失うことへの比喩ではなく、文字通り頭と胴体をつなぐ首が飛ぶということだ。しかしそんな危険な状況をものともせず、万事屋は将軍を将軍とは思っていないような無礼な態度を見せ続ける。もうやめろ、やめてくれ…!と心の中で懇願するも伝わらず、事態は最悪な展開を迎えていた。

ーーー遭難である。

俺たちは将軍と共に雪山で遭難したのである。将軍と女子供と一緒に遭難ともなれば、野郎どもだけでの遭難とは訳が違う。まあ一緒にいるのはなまえを除いて普通の女子供ではないのだが。

「なまえ、寒くねェか?」
「寒いですけど…将軍様の手前どうにもできません…!寧ろ私の身包み全てを差し出してでも将軍様に暖を取らせなくては」

ガタガタと震えながら一生懸命体を摩るなまえを抱き寄せ背をさすると、ホッとしたように小さく息を吐いた。そよ姫の誕生日パーティの際に、姫のために啖呵を切ったなまえを気に入ったらしい将軍の意向によって、今回のスキーに同行することになったなまえ。悪いことをしたなと俺もこっそりため息を吐いた。

しかし寒ィな…。どうするか。

「なまえさん、そんなとこにいないで女同士暖まりましょうよ」
「そうアル!ニコチン臭くなるネ」

将軍とは関わりたくないのか、なまえを自分たちの元へと呼び寄せる志村姉とチャイナ娘。やめろ、お前達は普通の女子供ではない。言えないけど。

「おーいテメェら、なまえをお前達と一緒にすんなよ。そいつは普通なんだから」

(…万事屋グッジョブ!)

どう言う意味アルか!と万事屋とチャイナ娘・志村姉がどつき合いを始め、それをオロオロと止めに入る眼鏡。我関せずな態度を見せる総悟。間違った角度から将軍を救おうとする近藤さん。そしてロン毛の攘夷志士とバケモノ。カオスだ。

「俺ァ助けが来てねェかちょっくら周り見てくるからよ」

正直この現場に長居したくないというのが本音だ。寒ィが背に腹は変えられないため、助けを求めて歩き出す。幸い風を凌ぐ程度にはなりそうな小屋はあったので、将軍にはそこで待ってもらうことにした。

「副長…っ、待って!」
「なまえ?」
「ハァハァ…私も行きますっ」
「寒ィだろ、大丈夫か?」

俺が尋ねるとなまえは苦笑いしながら残ったメンバーに目配せしてみせた。まァそうだろうな。なまえなら俺に着いてくると思って一人離れて正解だった。なまえがこっちに来たことにより、残された総悟は舌打ちでもしている頃だろうが…。

「うう…寒い…あたり一面全部雪ですよ…」

寒がるなまえに自分が巻いていたマフラーを外して渡してやると、遠慮しながらもおずおずと受け取り首に巻いた。俺の匂いがすると嬉しそうに笑うもんだから調子が狂う。

「副長、手繋いでも良いですか」

ほら、寒いし。と俺の手を握るなまえは先ほどよりも嬉しそうに笑っており、そんななまえを見て俺自身も締まりのない顔になっているのだろうと悟る。

近藤さんたちがいる小屋までの目印を残しながら雪の中を歩く。まるでこの世界には俺たち二人しかいないのだと思わせるように、遥か彼方まで続く銀世界。寒ささえなければ美しいと思えるのだろうが、今は緊急時だ。早く何か手掛かりを見つけなくては。

なまえの手を握ったまま考え事をしながら歩いていると「キャッ」と小さな悲鳴が聞こえ、繋いでいたはずの手の温もりが一瞬にして消え失せた。突然いなくなったなまえを探して辺りを見やると、なまえは遥か下方の川辺へと転落していた。

(しまった、雪で崖との境目が…)

俺は急いで飛び降り、なまえを抱き上げた。雪のおかげで衝撃こそ少なかったようだが、体全体が雪にまみれ濡れてしまっていた。このままでは体温が下がり危険だ。

「なまえ、歩けるか」
「…足、捻っちゃったみたいです」

苦しそうに眉間にしわを寄せるなまえ。視線の先にある足首をみれば赤く腫れていた。

「おぶされ」
「でも」
「凍え死ぬぞ、早くしろ」

なまえをおぶり、偶然見つけた川を辿って歩く。下っていけば…何かしら見つかるだろう。

「ちゃんと掴まれよ」
「おんぶされるの二回目ですね」
「今回は酔っ払いじゃないだけマシだな」
「あったかいです、副長」
「寒いだろうけどちょっとだけ我慢しろよ」

不謹慎かもしれないが、背中の温もりに少しだけ安心していた。今なまえを救えるのは俺だけなのだと。

しばらく歩いたところで小屋を見つけた。人が居る気配はなく、周りにも何もない。小屋だけがポツンと建っているだけで、助けを求めるために必要なものは無かった。

「とりあえず入るぞ」

ありがたいことに、小屋の中には数枚の毛布と数本の薪があった。そっとなまえをおろし、急いで暖炉に薪をくべて火をつけると部屋の中の気温が少しだけが上がった。

「なまえ、脱げ」
「え!?」
「濡れてるから風邪引くぞ」
「でも、ここで?」
「別に見ねェよ。さっさと濡れたもん脱いで毛布巻いてろ。しばらく火に当たれば服も乾くだろう」

しばし考え込んだなまえだが、背に腹は変えられんと思ったのだろう。「見ないでくださいね」と念を押して服を脱ぎ始めた。こんなところでギャーギャー言われても困るので俺は大人しく壁の方を向いて待つことにした。もういいですよと声をかけられ振り向くと、なんとも扇情的な格好をしたなまえがいて思わず咥えていたタバコを落としそうになった。

肩から毛布を巻いてはいるものの、スラリと伸びた綺麗な足と胸の谷間がチラチラと視界に飛び込んでくる。これは長居は出来ねェな…。

「副長?」

濡れた服を暖炉の前に並べたなまえがもう一度俺を呼んだ。

俺がそうさせたのだが、なんともいやらしい格好をしたなまえに下から覗き込まれれば、色んな欲が湧いてきそうだった。

「こっち見んな」
「何でですか」
「お前の格好…色々クる」
「やだ、変な目で見ないで下さいよ…」
「こんなところで盛る気はねェよ」

本当に?とからかうように俺に身を寄せるなまえ。お前が煽ったんだからな、と後ろから抱きしめた。俺もそれなりに寒かったから丁度いい。

「盛らないって言ったのに」
「今のはお前が悪い」

暖炉の前になまえを座らせ、改めて後ろから覆い被さるように抱きしめると、さっきまで恥ずかしがっていたくせに、楽しそうに笑い始めた。

「何笑ってんだよ」
「副長といると、アクシデントがあっても何も怖くないなと思って」
「お前といるとアクシデントばっかりだな」

思い返してみると事件ばっかりだ。
真選組の屯所で出会ってこいつと夫婦のフリをすると決めたときから。

「でもお前となら悪くねェかな」
「ん?なにがです?」
「こういうアクシデントだよ」
「吊り橋効果?」
「今更必要ねェだろ」
「副長私のこと大好きですもんね」
「あァ、愛してる」
「冗談に真顔で返さないでください」
「お前の反応が面白いからついな」
「もう」

愛してるのは本当だよ。お前が危険を冒してでも俺の隣にいると覚悟を決めてくれたように、俺だって何があっても共にあると、とうの昔に覚悟を決めているのだから。

「やっぱ我慢できそうにねェんだけど」
「さっきから当たってますもんね」
「ダメか」
「うーん、私も…普段とは違う状況で私も気が高ぶってるかも」
「マジで?いいの?」
「あんまり聞かないでくださいよ」

詳しくは言えねェけど、この時のなまえがとにかく最高だったことは伝えておこうと思う。

「…で、お二人さんなんかあったんですかィ?」
「なんもねェよ」
「…濡れた服乾かして休んでただけ」
「相変わらずつまんねェな、あんたら」

ひと通りことを済ませて一服している時に真選組の連中が助けにきて、無事に雪山を降りることができた。なまえの足首の傷が癒えるまでは、あの小屋の中での情事を思い出してしまいそうだ。

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