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愛染香



面白いものが見られるからと沖田くんに誘われ、向かったのは屯所の応接間だ。襖を開けるとそこには額に青筋を浮かべた副長が胡座をかいて座っていた。

「おい総悟、用件も言わずにこんなところに呼び出してなんのつもりなんだテメェは」
「だから言ったでしょう、面白いもんが見られるって」
「だからその面白いもんってなんなんだよ」
「今から説明しまさァ。姐さんも座ってくだせェ」

促されるまま副長の隣に腰を下ろすと、沖田くんはこれでさァとポケットから何かを取り出した。

「ちょっと前に地下で流行ってたもんらしいんでさァ」
「地下?吉原のことか」
「ええ。万事屋の旦那から譲り受けましてねィ」
「このハート型のものに何か面白い機能でもあるの?」
「名前は愛染香と言いましてねィ」
「アイゼンコウ?お香なの?」
「これは最後の一個なんですぜィ。残りは吉原で全て処分されちまったらしいんでさァ」
「それをお前が持ってるってことはロクでもないもんなんだろ」
「ロクでもないとは失礼な。惚れ薬って言えばわかりやすいですかィ?」
「は?」
「この香を焚いて、その煙を吸ったあと最初に見た人に惚れてしまうらしいですぜィ」
「それを俺らで試そうってか。ふざけんな。そんな茶番に付き合ってる暇ねェんだよ」

苛立った様子の副長が腰を上げ、応接間から出て行こうとしたとき、沖田くんの表情が変わった。ああ、なんて楽しそうな顔をしているんだろうこの子は…。いたずらを成功させるための算段をつけているのか、はたまた算段がついたのか。ニヤリと口角を上げて笑う沖田くんの周りにはなんだか黒いオーラが漂っている。

「土方さんは興味ねェってんなら、俺と姐さんで試しやす」
「え?」「は?」
「この香をここで焚いて、俺と姐さんがお互い惚れ合ったらこの香はホンモノってことでさァ。万事屋の旦那は効きすぎて苦労したみたいなんで…そうだな、姐さんと夜の一戦交えるのも悪くねェや」
「ちょっと待てふざけんな。実験なら他所でやれ、なまえを巻き込むんじゃねェよ」
「それなら町なかで焚いて町民をパニックに陥れてやりまさァ」
「わかった、わかったよ!俺が嗅げばいいんだろ!」
「さすが土方さん。物分かりがいいや」

じゃあちょっと火借りますねィと副長が咥えていたたばこを奪い、香に押し当てた沖田くんはニヤニヤと笑いながら部屋を出ていった。私は閉じられた襖を見つめながら呆然とするしかなかった。

「煙、出てきましたね」
「だな」
「本当に惚れ薬なんでしょうか」
「そんなものあってたまるかと言いてェところだが」
「こんな世の中ですもんねえ…」
「お前、のんきだな」
「慣れてますからね…アクシデントも沖田くんのいたずらに付き合わされるのも」

しばらくの間、二人で煙を放つ香を見つめていた。
すうっと煙を吸って、お互いの顔を見つめる。…が、普段となにも変わらない。やはり惚れ薬なんていうのは嘘だったのではないか。

「なにか変化ありますか?」
「特にねェな」
「本物なんですかね、これ」
「さァ、」

やめだやめだ、ばからしい。と香をつまんで庭にぽいっと捨てた副長は、そのまま縁側から庭に降り、靴で香を踏み潰して火を消した。

「はァ〜総悟のせいで無駄な時間過ごしちまった」
「仕事に戻りますか?」
「いや…一緒に休憩でもすっか」
「甘味でも食べます?」
「俺はいい。とりあえず俺の部屋行くぞ」

せめてお茶だけでも準備をしようかと思ったのだが、さっさと行くぞと言われそれは叶わなかった。

もう何度となく足を運んだ副長の部屋。
副長はジャケットを脱ぎ去りスカーフを外すと、張り替えたばかりの畳にゴロンと横になった。

「昼寝でもすっか」
「最初からする気満々ですよね」
「ほらお前もさっさとこい」
「お邪魔します」

筋肉質な右腕に頭を乗せると、おやすみと額に口付けられた。私もおやすみなさいと返して副長の胸に顔を寄せて目を閉じた。



「おーい総悟、なにやってんだ?」
「愛染香とやらを裏ルートで仕入れたんで土方さんと姐さんに試してもらったんですが…偽モンだったみてェでさァ」

と、沖田は踏み潰された香を眺める。

「これ多分本物だぞ。俺が見たのと同じだ」
「じゃあなんであの二人…」
「…最初から惚れ合ってるからじゃねェの?」
「なるほど、つまんねェ」

思わぬ理由で不発に終わったいたずらに不満気な顔をする沖田。鬼の副長が昼寝をしている間に、彼はまた次のいたずらを考えるのだった。

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