やきもち



この間、母が屯所を訪ねてきた日以降、副長の様子がどことなくおかしいことがある。今までの私たちはどちらかというと形にこだわることはせず、流れに身を任せて二人の時間を過ごしてきた。しかし、最近の副長はやたらと結婚というものを意識したような発言をするのだ。もちろんそれは私にとって嬉しいことなのだが、副長の真意がどこか違うところにある気がして、素直に受け入れられない。

いつものように沖田くんと三時のおやつを食べていた時のこと。「姐さん、ついにあんたら結婚すんのかィ」と聞かれ、どうして?と返すと、沖田くんは「土方さんが結婚指輪のカタログ見てたぜィ」と言うのだ。

ついに症状はここまできていたのか。
急にどうしたのだろうと考えてみても、所詮私たちは他人で、相手の思っていることすべてを汲み取れるほど優れてもいない。

「なんかおかしいんだよね、最近」
「土方さんが、ですかィ?」
「うん。何か知らない?うちの母が来た日くらいからおかしいんだよね」
「そういえば万事屋の旦那のところにあんたの昔の男のこと聞きに行ったらしいでさァ」
「それ本当?」
「この間旦那に愚痴られやした」
「なんなんだろう」

夜を共にすればこれでもかと身体中に痕をつけられるようになった。独占欲、のようなものを感じる。

「あの人柄にもなく昔の男に嫉妬してるんじゃないですかィ?」
「そんなことある?あの人が?」

モテる男代表のような顔をしているあの人に限って、そんなことはないような気がするが……。

「あ。思い出しやした」
「なにを?」
「あんたの母ちゃん、アルバム置いていったんでさァ」
「アルバム?私の?」
「それと関係あるんじゃないですかィ?」
「…確かめてくる」

嫌な予感がした。昔のアルバム…単純に幼少期の頃の写真のみなら構わないけれど、もしかするとあいつとの写真もあるかもしれない。いくら昔の写真だとしても、恋人がほかの男と仲睦まじくしている写真があればいい気はしないだろう。私なら発狂しそうだ。

「副長?失礼します」

副長の部屋を訪ねてみたが、彼はちょうど見回りか何かに行っているようで、部屋の中は無人だった。悪いと思いつつ部屋に入り辺りを見渡すと、部屋の隅にアルバムらしきものが数冊置いてあった。

こんなものを持ち出すなんて…と母を恨みつつページをめくると、見つけてしまった。晋助とともに写っている写真を。

たった一枚。いつ撮られたのかも覚えていない十代の頃の写真。しかしそこに写っているのは紛れもなく恋人同士だった頃の晋助と私だ。恐らくは晋助が私の家を訪ねてきた時だろう。部屋の隅で、座ったまま寄り添って眠っている二人の写真。

「いつ撮ったんだろう、こんな写真…」

とても穏やかな顔をしている晋助。
好きだった人。

「おい、なにしてるんだ」
「ふ、副長…!おおおおかえりなさい」
「なに慌ててんだよ」
「いえ、なにも」
「……あ、それ見たのか」
「すみません、沖田くんから母がアルバムを置いていったと聞いて…」
「別に構わねェよ。元々お前のだし」

拗ねたように目を伏せて、そっぽを向いた副長が愛しい。思い違いでなければ、この写真を見て妬いてくれたんだろう。

「副長」

彼の頬を両手で包み、そっと口付けをおくる。

「あの写真見ちゃいました?」
「まァな」
「妬いてます?」
「そうだな」
「ありがとうございます」

もう一度口付けをおくると、ギュッと抱きしめられ、ねっとりと深い口付けが返ってきた。

「…お前の初恋なんだろ」
「ええ、まあ」
「何もかもあの野郎がお前の初めてを奪ったと思うと気が狂いそうだ」
「そんなの私も同じですよ」
「今更どうかしてるとは思うんだが…お前のことになるとどうも自信が持てねェ」
「安心してくださいよ、副長以外好きになれませんから」
「…」
「私なんかよりあなたの方がモテるんですからね。私の方がいつもハラハラさせられてます」
「でも俺ァお前以外眼中にねェぞ」
「それを言うなら私だって」

他人の入る隙間なんてないほどにきつく抱きしめ合いながら、俺の方が私の方がと愛を競い合うなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある。付き合いたての十代の子どものようだ。…なんて頭の隅の方でそんなことを思いながらも、こんなやり取りが楽しくて仕方ない。

私の手なんか届くはずがなかった。それなのに、今ではこうやって誰よりも近い場所に居られるのだから、人生とは不思議なものだ。

「副長、結婚って形にこだわらなくていいですから」
「……迷惑か?」
「そんなことないです。嬉しいですよ?でも、それがちゃんと必要になる時期が来るはずですから、その時まではこのままでいいです」

一緒にいることが義務になるのはちょっとつまらないと思った。お互いの意思で、お互いが必要だと思うから一緒にいるこの時間が、私には何よりも嬉しいものだからだ。

「なまえ」
「はい?」
「何があっても俺だけを信じろよ」
「ええ、心得てます」
「全く…良い女だよ、お前は」

副長が隣にいてくれるなら、それ以上望むことなんて何もない。副長の存在そのものが私の幸せなのだといつかきちんと伝えられれば良いなと思う。

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