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高校バレーが終わった。全てを出しきったが、ほんの少しだけ…相手のチーム力が上回っていたのだろう。ほとんど運みたいなもの、うちのチームは、青城は、なにひとつ劣るところなんてなかったのだから。

悔しすぎる敗戦から一週間。
今まで毎日のように動かしていた体を動かす機会が減って体力を持て余している。もちろんバレーは続けるし、時間が許す限り青城バレー部とは別の場所でボールを触ってはいるのだが。

「「あ」」

放課後、家に帰ってランニングウェアに着替えて町内を数週したのち、クールダウンがてらひと気の少ない公園に足をのばすと、いつかのようにナマエがいた。今日は顔を腫らしていなくて少しだけ安心した。

「徹部活は、ってそっか…ごめん」
「傷抉ってくるスタイル?」
「いや、だからごめん」
「でもよく知ってたね、引退したって」
「あの…最後の試合ね、こっそり観に行ってた」
「え?」
「おばちゃんに誘われて観に行ってた。ごめんね、内緒にしてて」
「はあーマジか。俺カッコ悪い」
「カッコ悪くなんかないし!素人だから上手く言えないけど徹すごくて感動した。青城のみんなが徹のこと信頼してるのわかった、徹が誰よりも努力してたってわかった、だから本当に徹は…」
「もういいから、恥ずかしいからやめて」

まさかあのナマエがこんなに真面目に俺のことを見ていてくれてたなんて思ってもみなかった。だから恥ずかしくて、しばらくナマエの顔を直視できなかった。

ナマエは試合の感想をひと通り言い終わると、静かに涙を流した。女の子に泣かれたことなんて今までいくらでもあったが、普段からしおらしい子が静かに泣くのと、普段は手綱を握れないほどのじゃじゃ馬なおてんばな子が静かに泣くのではこうも印象が違うのか。どうしていいかわからずに、とりあえず首にかけていたタオルで涙を拭ってやると、汗くさいと言われた。ぐぬぬ。

しばらくなにもせずただ隣に座ってナマエが泣き止むのを待った。すすり泣く声が聞こえなくなったのは五分ほど経った頃だった。

「なんで泣くのさ」
「…徹はすごい人なんだなって思って」
「え?」
「私にはもう徹しかいないのに、なんか遠い」
「遠い?」
「やっぱなんでもない、ごめん。よし帰ろう」

必死に何かを堪えて無理矢理作ったらしい笑顔は、笑顔と呼ぶにはほど遠くひどく儚い。今にも消えてしまいそうなナマエを俺はとっさに抱きしめた。

「うわ、っと」
「泣きたいなら泣けばいいじゃん、俺しか頼る人いないんなら俺に頼ればいいじゃん」
「徹?」
「あんまり心配させんな」
「心配してくれてたの」
「ずっとしてるっつーの。でも俺とお前ってただのお隣さんじゃん。友達でもないっつーか、連絡先も知らないし。心配のしようがないっていうかさ、だからその…なんか、」
「連絡先交換して友達から始めましょうってこと?」
「…そういうこと」
「いいよ、はい」
「なにかあったらすぐ連絡すること。寂しくなったら変な男のとこなんか行かずに俺のとこに来な」
「お人好しだね、徹は」
「そうそう。俺ってお人好しなの。でもいつもは来るもの拒まず去るもの追わずスタイル。それなのにわざわざお前のこと迎えてるんだからレアだよ」
「なにそれ」

ナマエはいつものように大口を開けて笑った。
やっとだ。

「よし、帰ろう」
「走って帰るの?」
「お前のために歩いてあげる。今日の晩飯サンマだってさ。お前のぶんも買ってあるからさっさと帰ろう」
「いつもごめんね」
「謝んな。お前のためじゃねえよ。好きでやってんの」
「うん、ありがとう」

お隣さんからお友達に昇格した俺たちは、今までで一番距離が近いような気がした。


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