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「よ!おかえり」
「最近当たり前のようにうちにいるけどなんなの」
「ばあちゃん入院しちゃって家にいないからおばちゃんが誘ってくれたの」
「…そう」

人の噂も七十五日とはいうが、実際はそれより早くナマエの悪い噂は消えていった。当の本人は気にしていない素ぶりを貫き通していたし、今のこの図々しい態度を見れば心配したのが損だったような気さえしてくる。

「ねぇお前そのスカート短すぎない?」
「は?みんなこれくらいじゃん」
「そんなんでチャリ乗ったらパンツ見えるぞ」
「え?なに徹私のパンツ見たいの?」
「見たくねーよ」
「見せてあげてもいいよ、ほれほれ」
「ばっかじゃねーの!?」

男を挑発するような丈の短いスカートを履いて、どっかの高校の男とニケツしている姿を見たのは昨日の話だ。人が善意で注意してやってんのにニヤニヤ笑ってやがる。ったく、なんなんだ。せっかく悪い噂が聞こえなくなったというのに、当の本人がこの感じだからまた良からぬ噂が立つんじゃないかと心配になる。

「お前ね、もうちょっと大人しくしてたら?素行不良すぎて退学になるよ?昨日また違う男といたっしょ」
「なったらなったじゃない?別に誰もなにも言わないよ、どうせ私はひとりなんだし。昨日のはただの友達だし」
「オトモダチが多いんだねぇお前は。ってか親は海外にいるんでしょ?」
「……さあね」
「は?」
「とっくに離婚してるし。親が海外赴任だからばあちゃんの家になんていうのは世間体のためだし実際はそんなんじゃないよ」
「お前なんでそんな大事なこと言わねえの」
「言っても変わんないじゃん。ひとりは慣れてる」
「慣れてないからオトモダチのとこ行くんだろ」
「別にそんなんじゃない」
「自分が傷付く前にやめなよ、そういうの」
「何でも持ってる徹にはわかんないよ」

いつも勝ち気でバカみたいに明るくて頭からっぽになったみたいにゲラゲラ笑ってるくせに何でそんな泣きそうな顔してるわけ?

「帰るね。おばちゃんごちそうさまでした!」

リビングでテレビを見ていたうちの母親の背中に向かってそれだけ言うとナマエは一度も振り向かずに帰っていった。実際に家に帰ったかどうかは知らない。また男のところにでも行ったんだろうか。最近は見るたびに違う男といるからな、あいつ。

「ねえ、隣のばあちゃんの具合ってあんまり良くないの?」
「詳しくはわからないけど…ナマエちゃんに聞く限りだと良くないみたいよ。親御さんが近くにいないのに…寂しいよね」
「ナマエの親のこと知ってた?」
「ちょっと前にご近所さんから噂話程度に聞いたのよ。だからなるべくご飯のときに誘うようにしてるんだけど…」

夏のにおいがすると言ってキラキラ笑っていた女の子は、いつの間にか寂しそうに笑う全然知らない女の子になっていた。

翌日、移動教室の時に二年の教室の前を通ったときに見かけたナマエは同級生の女子と楽しそうに笑っていた。でもなんだかその笑顔が嘘くさく見えてしまって、あいつはもっと色んな闇を抱えてそうな気がした。でも俺は"ただのお隣さん"で、話してもらう義理もないし、聞いたところで解決はできないだろう。
あんなに嘘くさい笑顔でいるのは寂しさを埋めるためなんだろうか。たかがクラスメイトでも、両親もばあちゃんもそばにいないナマエにとっては一番身近な存在なのかもしれない。

「及川、なにボーッとしてんだ、行くぞ」
「ちょっと待ってよ」

全部持ってる徹にはわからないよ、とはどういう意味だろうか。全部とは、どこからどこまで?ナマエが欲しがっているものって?
……って俺が気にしたところで何になるんだよ。ただのお隣さんじゃん、彼氏でもなければ友達でもない俺が十数年ぶりに会ったナマエに何すんだよ。

こんなことを悶々と考えながら部活をしていたときのこと。飛んでくるボールに気づかずに思いっきり顔面で受けてそのままよろけて壁で頭を打った。

「及川何してんだべ!危ねぇだろ!」
「ご、ごめん岩ちゃん」
「及川さんすんません!大丈夫っすか…?」
「大丈夫大丈夫、気にしないで練習戻って」
「お前とりあえず保健室行ってこい」
「大丈夫だよ」
「デコ赤くなってるしたんこぶできてんぞ、冷やしてこいって」

大丈夫だと言い張ったが心配性な岩ちゃんに強制的に保健室に行かされることになり、俺は渋々体育館を出た。

「先生ー?」

声をかけてみたが先生はいなくて、勝手に冷やせるものを探しているとベッドの方から声がした。

「徹?なにしてんの?」
「うわ!ビックリした…お前こそなにしてんの」
「おデコ赤いけど転んだの?」
「違う違う、ボールが当たった」
「そっか、部活の時間だよね」

色気もなにもない大あくびをこいたナマエは俺の代わりに冷やせるものを用意してデコと後頭部のたんこぶに当ててくれた。

「お前今日もうちで飯食うでしょ、終わるまで待ってろ」
「は?やだよ」
「いいから、絶対待ってろよ」
「徹と一緒にいると変なのに目つけられる」
「お前の素行不良が原因だろ」
「違うもんね」
「いいから待ってろよ」

これだけ念を押したのに、部活が終わるころナマエはもう学校に残っていなかった。連絡先すら交換していない俺にはナマエの居場所なんてわかるわけがなくて、結局いつものように岩ちゃんと二人で帰ることになった。なんなんだあいつ。


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