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「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜」
「デッケーため息だな」

ため息をつかずにはいられないよ、もう。

「なに?及川また失恋?」
「またって何さ。マッキーには教えてあげないから」
「え?ガチで失恋?」
「違うって!」

隣の家の幼馴染を思い出すとまたため息が出た。いや本当にね、あの可愛かった名前があんなコテコテのヤンキー女になってるなんて誰が想像できた?

「岩ちゃん、ナマエに会った?」
「あ?いや…っていうか引越してきたのナマエだったのか?」
「うん。昨日の夜挨拶に来たんだけどね、引くくらいバリバリのヤンキーだった。金髪だし化粧濃いし誰かわかんなくて」
「え、ナマエって誰?」
「だからマッキーには教えないって!」

なんだよケチとぼやくマッキーに岩ちゃんはボソッと昔近所に住んでたやつだとよ、とご丁寧に説明をしていた。

「幼馴染と十数年振りに再会して淡い恋が芽生えるとでも思ってたわけだ」
「まっつん、鋭すぎてやだ。ふたを開けたら超ヤンキーなんだもん。信じられる?俺の純情返して」
「ヤンキーでも可愛いんだろ?」
「まあ…ケバいからどうかわかんないけど、俺の記憶の中のナマエは超可愛かった」
「えー俺も会いたい」
「マッキーは好きなタイプかもね。会わせないけど」

朝練が終わり、部室棟から校舎へと移動をしていると校門の方から馬鹿デカイ声で「徹ー!!!」と名前を呼ばれ、ギョッとして振り返ると何故か青城の制服に身を包んだナマエがいた。…は?

「はー、良かった!おばちゃんから徹と同じ学校だって聞いて…今日からここに転校なの」
「マジで」
「よ、ろ、し、く〜」

容赦無く背中をバンバンと叩かれ顔が引き攣る。マジか。あ、でも昨日より化粧は薄いな。

「及川、噂の?」
「あー…ナマエ」
「ドンピシャ!俺、及川の同級の花巻貴大です。付き合って下さい」
「え、無理ですけど」
「ぶっはっは!!無理、だって!ウケる」
「及川お前覚えとけよマジで」
「ナマエ、俺のバレー部の仲間。こっちが幼馴染で相棒の岩ちゃん、こっちがまっつん」
「よろしくな」
「うん、よろしく!」

見た目がヤンキーなだけで、はつらつとした笑顔は思いの外可愛らしかった。

とはいえ、ヤンキーはヤンキーだ。この学校に推薦枠ではなく入学したのならそれなりに勉強はできるのだろうが、見た目がアレなので三年の間でもちょっとした有名人だった。あいつが転校してきて一ヶ月、他校の男と歩いていたとか、他校の女子に絡んでたとか喧嘩売ったとか買ったとか根も葉もない…かどうかはわからないけど、そんな噂まで立つようになっていた。本人が気にしているのかどうかはわからないけど、俺だったら良い気はしないかなと思う。

「及川、さっき二年の教室の前通ったけどナマエ一人でポツーンとしてたぞ」
「なんかすごい噂立ってるもんね」
「どうせ噂だろ?」
「女の子たちはそんな簡単にいかないんじゃないの」
「お前目立つんだから牽制してやれよ」
「岩ちゃんわかってないね、俺がそんなことしたら余計こじれるよ」
「自意識過剰だっつーの」

ナマエが隣の家に引越して来て一ヶ月経ったが、俺とナマエの関係性はただのお隣さんだ。初日に家に来て挨拶を交わして以来、話すのは学校ですれ違ったときくらいで、学校以外ではほとんど喋ることもなかった。

まあ次会ったら話くらい聞いてやるかと思いながら家に帰ると、先ほどまで頭を占領していたヤンキーがいた。え?ここ俺の家だよね。なんでいんの。

「ちょっとなんでいんの」
「ばあちゃんが町内会の旅行でいないからおばちゃんがご飯食べて行きなって言ってくれたの」

荷物を置いて部屋着に着替えてナマエの正面に腰掛ける。いつもと違う光景にかなりの違和感を感じていた。

「青城ってバレー強いんでしょ?練習大変?」
「まーね。春高予選まで時間ないから超スパルタ」
「私が東京いる間通ってた高校も強かったよ」
「へぇ、お前東京にいたんだ。バレーわかるの?」
「見たことない」
「お前は部活やってねぇの?」
「やってるように見える?」
「全く。ヤンキーだし」
「私ヤンキーじゃなくない?ウケる」

おばちゃんごちそうさま〜と俺より一足先に食事を終えたナマエは、律儀に食器を洗って片付けをしていた。見た目はヤンキーだが礼儀はわきまえているらしい。

「お前学校ですごい噂立ってるじゃん。あれなんなの?」
「三年までいってんの?うえー」
「で、噂の出所は?内容の真偽は?」
「出所はってそりゃ女でしょ。転校生って目立つから転校してすぐ告られたんだけど…告ってきた男のことを好きだった女とかその取り巻きとか?なんか色々。まあ全部根も葉もない噂。でも気にしてないよ」
「随分落ち着いてんね」
「慣れてるし。転校生ってだけで騒がれるのも嫌われるのも」
「ふーん」

話しながら少しだけ寂しそうな顔をしたナマエは、それでも尚気にしてないから大丈夫だと言い張った。俺は何故だかその一瞬だけの寂しそうな顔が気になって仕方なかった。


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