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「ねえ!夏のにおいがしない?」
「なにそれ、わかんない」
「えーどうして?こんなに夏のにおいがするのに!」
「どんなにおい?」
「なんていうのかな、こう…胸がどきどきしてたのしくなる感じのにおい!…とにかく、それが夏のにおい!」

遠い記憶の中の女の子。
あの子が言った夏のにおいとは、今のようにアスファルトの焼けるにおいだったのだろうか。いくら東北とはいえ、夏は当たり前に暑いし、こんなに暑いんだからアイスだって食べたい。

「お前そんなんばっかり食ってたら腹壊すぞ」
「岩ちゃんだって食べてたじゃん」
「俺は一個しか食ってねぇよ」
「でも部活が休みの日の帰り道のアイスとか最高じゃない?」
「まあそれは言えてる」

いつもの様に幼馴染の岩ちゃんと歩く帰り道。毎日毎日暑くて正直バテそうだ。アイスの一つや二つ食べてもバチは当たらないだろう。

「ねえ岩ちゃん、ナマエって覚えてる?」
「いや、俺多分直接会った事はねぇよ。お前の口から何回か名前は聞いてるけど」
「そっか、会った事なかったのか。いやー、夏になるとなんか思い出すんだよね」

幼い頃、いつも近くにいた女の子。
俺と岩ちゃんが出会う前の話というのなら随分と昔のことなのだろう。小さくて、可愛くて、いつも女の子らしくて。生まれて初めて俺が守ってあげなきゃいけないと思った子だと思う。ありきたりな親の転勤かなにかで引越していったっきり会うこともなかったその女の子は、夏を迎える度に記憶の中に蘇る。

「なんで"夏"で思い出すんだ?」
「夏のにおいがするーなんていっていつも俺を外に連れ出そうとしてたんだよね。未だにそれがどんなにおいだったのかよくわかんないんだけど」

溶け始めたアイスを一気に口に放り込み胸いっぱいに空気を吸い込んでみたけど、やっぱり夏のにおいの正解はわからなかった。

「ん?引越しのトラックだ」
「あのばあさんのところか?」
「そうみたいだね。ばあちゃん引越すのかな」
「荷物入れてね?逆に誰か来るんじゃねーか」
「本当だ。後で母さんに聞いてみよう。じゃあまた明日ね」
「おう、朝練寝坊すんなよ」
「お安い御用〜」

あと十二時間もすれば再び顔を合わせることになる相棒に別れを告げて、俺たちはそれぞれの家へと帰った。

「ねえ母さん、隣のばあちゃんの家って誰か引越してくんの?」
「あら、もうトラック来てた?」
「今荷物入れてたよ」
「昔お隣に住んでたナマエちゃん覚えてる?」
「え?うん」

先程まで話題に上がっていた女の子の名前が急に母さんの口から出てきたもんだから少しばかり驚いた。

「ナマエちゃんのお父さんとお母さんが仕事で海外に行くんだって。で、ナマエちゃん連れて行くわけにもいかないからっておばあちゃんのところにね」
「へー」
「徹とひとつ違いだったよね?」
「覚えてないけど多分それくらい」
「何かあったら力になってあげなさいね」

母さんの言葉に力なく返事をして俺は自室へと向かった。あの可愛らしかった女の子は今どんな風に変わっているのだろうか。俺のこと、覚えているだろうか。


翌日部活を終えて帰って来ると家の前にヤンキーがいた。金髪のヤンキーが。誰だよお前、俺にそんな知り合いいたっけ…と顎に手を当て考え込んでいるとヤンキーが振り返った。

「ねえ、この家の人?」
「そうですけど、どちら様」
「隣に引越して来たんだけど…挨拶に来たら誰もいなくて。……ってもしかして徹?」
「徹ですけど…え、うそ、もしかして」
「ナマエ!!覚えてる!?」

覚えてる、覚えているさ。
でも誰がこんなヤンキーを想像していただろうか。大きくなって再会した幼馴染が色白な清純派女子に変貌を遂げていてドキドキする展開を期待していた俺は膝から崩れ落ちそうだった。

ああ、思い出は綺麗なままで終わらせておきたかった…と目の前の金髪ヤンキーを見て人知れずため息をついた。


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