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39

過保護な局長と副長によって強制的に病院送りにされ入院することになった私の元には、連日多くの見舞いが訪れていた。

「山崎さん、ありがとうございます」
「いやあ…ナマエさんが喜んでくれるならこれくらいお安い御用です」
「お花とっても綺麗です」
「昨日来たときに食べ物は余ってるって言ってたから違うものがいいかと思って」
「お気遣い感謝します」
「しかしこれ…すごいですね」

真選組のみんなが市中見回りの途中で病院に寄ってくれて、その度にお見舞いと称してたくさんのお菓子や果物などを置いていってくれるのだ。とてもじゃないがあと二日の入院生活で食べきれる量ではない。

「明日はなにがいいですか?」
「何もいりませんって、皆さんのお顔を見られるならそれだけで良いんですよ、本当は」

あの日、真選組のみんなとはもう二度と会えないかもしれないと覚悟した。それなのにまたこうやって毎日顔を合わせることができるのは、私にとって何よりの幸せだった。

「姐さん入りやすぜィ」
「入ってから言わないの」
「なんだ山崎、サボりかィ?」
「そんなんじゃないです、沖田隊長じゃあるまいし。じゃあナマエさん、また明日来ますね」
「明日の見舞いの品は漫画にしてくれィ」
「あんたが読みたいだけでしょ」

全くもう…と呟きながら病室を出ていった山崎さんの背中にもう一度お礼を言ったところで、沖田くんがベッド脇の椅子に腰掛けベッドに突っ伏した。

「副長に見つからないうちに帰らなきゃダメよ」
「姐さんばっかりズリィや。俺だって怪我したのに」

ほらここ、と頬についた一筋の切り傷を恨めしそうに指差す沖田くん。私を助けるために頑張ってくれたんだよね、ごめんねとすっかりかさぶたになったそれを優しく撫でる。

「痛い?痛いの痛いの飛んでけってやろうか」
「…こんくらいどうってことねェやィ」

今度は拗ねたように口を尖らせる沖田くん。
子ども扱いが余程気に食わなかったらしい。

「姐さん…戻ってくるんですよねィ」
「うん。そのつもり。いいかな?」
「俺ァあんたの飯が好きなんで歓迎しまさァ」
「ありがとう」

この沖田くんは、誰より素直に私が戻ってくることを望んでくれている。少しだけ気恥ずかしくもあるが。

「明後日退院でしたよねィ」
「うん。午後には帰るよ」
「迎えは?あの人が来るんですかィ?」
「あの人?」
「土方さん」
「どうだろう、何も言ってなかったけど…」
「ま、俺が出しゃばる必要はなさそうだねィ」

私がもらったはずのお見舞いの品を我が物顔で口に運ぶ沖田くん。

「姐さん、りんご食べて良いですかィ?」
「いいよ。剥こうか?」
「うさぎにして下せェ」
「はいはい」

手のかかる子だなと呆れながらも、またこうやってお姉ちゃんになったかのように沖田くんと過ごせる時間が嬉しいし楽しい。彼からしてみればこんなお節介なお姉ちゃん邪魔なだけかもしれないけれど。

ーーコンコン

「ナマエ入るぞ」
「げっ」
「どうぞ」
「あ、テメッ!総悟!またサボりやがったな!」
「なんでィ。土方さんだって同じだろィ」
「俺は自分の仕事終わらせてから来てるっつーの」
「ったくうるさい人でィ。姐さんひとりじめできねェからってカッカしやがって」
「んだとコラ。減給するぞ」
「お〜怖い怖い。りんご食べたら戻りまさァ」
「今すぐ戻れ馬鹿野郎」

しばらく副長と言い合いを楽しんだ沖田くんは、うさぎの形のりんごを一切れ口に含むと手をひらひらと振って病室を出ていった。きっとまた明日も顔を出してくれるんだろう。なんだかんだ言って優しい子だから。

「またあいつら揃いも揃ってここに来てやがったな」
「お見舞いの品がすごくて、どうしましょうね」
「万事屋の連中にでもくれてやれ」
「副長が銀時たちを気にかけるなんて珍しいですね」
「お前の数少ないダチだそうだからな」
「そんなこと言ってました?失礼しちゃう」
「ま、今回はお前のことで世話になったしな」
「またお礼しに行かなきゃですね」
「だからここにある菓子でも渡して済ませとけっつってんだろ」

副長は沖田くんが残していったりんごをシャクシャクと頬張りながらベッドの端に腰掛けた。背を向けられているため顔が見えなくて少し寂しい。

「退院の日、誰か迎えに来るのかって沖田くんが気にしてくれてました。元気だから私ひとりでも大丈夫なんですけどね」
「俺が迎えに来るから大人しく待ってろよ」
「良いんですか?そんな副長直々に」
「俺ァ総悟と違って自分の仕事はきちんとこなしてるから心配すんな」
「あの攘夷浪士たちの件はもういいんですか?」
「あァ。それに関してだけは総悟が張り切ってやってたからもうとっくに片付いてる。俺でも引くくらいこっ酷く拷問してやがったぜ」
「そうなんですか?拷問か…」
「あいつ、口には出さないがお前のこと慕ってるからな。今回お前を傷付けられてかなりキレてた」

私が思っている以上に、沖田くんには心配をかけてしまったらしい。思えば屯所を去る決意をしたあのときからずっと私が戻って来るかどうかを気にしてくれていた。また目一杯甘やかしてあげなくては。

「おい、もう甘やかすなよ」
「え?やだバレちゃいました?」
「お前の考えは手に取るようにわかる」
「まあどうして?」
「好いた女の考えくらいわかってやれねェと長続きしねェだろうよ」
「さすがモテる男は違いますね」
「バカにしてるだろ」
「してませんよ」

歯の浮くようなセリフを言うくせに未だに顔は見せてくれない。真っ黒な制服の背中をつんつんとつつくと、副長はそのまま私の足の上に体を倒した。ずいぶんとダイナミックな膝枕だ。私の顔ではなくて病室の天井をボーッと見つめる副長の髪を撫でる。数日前まではこんな穏やかな時間が訪れるなんて知らなかったから、なんだかとてもむず痒い。

「副長、ありがとうございます」
「あ?なにがだ」
「全部です。真選組で働くことを許してくれたことも、奥さん役に私を選んでくれたことも、いつも助けてくれることも、私を好きになってくれたことも全部」
「それを言うなら俺の方こそだ」
「不思議ですよね、本当に」
「退院したらお前の母ちゃんに会いに行くぞ」
「どうしてですか?」
「今度こそちゃんと嫁にもらうって話すんだよ」
「もらってくれるんですか?」
「あァ。誰にも渡さねェ。また何かに巻き込まれるかもしれねェが、それでもいいってんならな」
「思う存分巻き込んでください、もう慣れました。関係ないところに放り出されるほうが寂しいですから」
「言うようになったな」
「泣く子も黙る真選組鬼の副長の女になるんだからこれくらいないとでしょ?」
「あァそうだ。死ぬときゃ共に、だ」
「ふふ、幸せです」

ようやく体を起こした副長の首に手をまわすと、穏やかに微笑んだ副長の顔が近づく。夕陽が差し込む病室のベッドの上で交わした口付けは想像していたよりも濃厚で頭がくらくらした。

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