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松平のとっつぁんが屯所に来るらしい。どうせまたとんでもないこと言いに来るだけだろう。上司じゃなかったらマジで一回死んでもらいたいくらい面倒なことばっかり言う人だから困ったもんだ。とりあえず食堂のナマエに茶を頼んで応接間に入り、暫くするととっつぁんがやってきた。

「おーいトシィ…ちょっとおじさんの頼み聞いてくんない?」
「できれば断りてェ」
「その頼みは聞けねェなァ」
「ま、そうだろうな(じゃあ聞くな)」

だから嫌な予感しかしねェんだって。

「トシィ…おじさんのお願いってのはな、お前俺の知り合いの娘と一発ヤってきてくんない?」
「は?」
「いやぁ、知り合いの偉いさんの娘がお前を気に入ったらしくてなァ。ほれ、この間の将軍のパーチーで一緒になったろ?」
「なんとなく。しかしそんな得体も知れねェ女お断りだ」
「俺もそう思うんだけどなァ?お前が既婚なら断りやすいんだが違ェしよォ」
「いくらとっつぁんの頼みでもそりゃ無理があるぜ」
「お前にそろそろ身を固めて欲しいっつー俺の願いも込めてなんだがねェ…トシ、とりあえずオッケーって伝えていい?」
「今の会話のどの辺聞いてたらオッケーなのォォォ!?」
「おじさんも面倒臭いんだよーお前そろそろ結婚してもいいんじゃね?」
「いやいや俺には俺の…」

こうなると絶対譲らないのがとっつぁんだ。考えろ、考えるんだ俺ェェェ!こんな面倒な話受けられる訳ねェだろ!!何か断るのに最適な、尚且つ角が立たない断り方…

「失礼します、お茶をお持ちしました」

あ、いいこと思いついた。





「ととととととっつぁん、俺、今度こいつと結婚すんだよ」

副長に言われて応接間に松平長官様と副長の分のお茶を持っていった。幹部同士の話だから聞いてはいけない案件だろうと、お茶を置いたらすぐに立ち去るつもりだった。しかし私の腕は何故か副長に握られており、気がつけば結婚宣言された。はて、私は副長とお付き合いをしていただろうか。ど突き合いならあるかも知れないが間違ってもお付き合いをした記憶はない。なぜだ、なぜ結婚する話になってんだ。忙しすぎてとち狂ったんですか副長。

「え?そうなの?お前ら結婚すんの?」
「いや、私も初み「俺ら結婚すんだよな!な!」…は?」

副長が血走った目で睨みをきかせている。話を合わせろということだろうか。合わせないと死ぬんだろうか。

「い、いやですよ副長、まだお付き合いの段階です。結婚なんてオホホホホホ」

−−−果たしてこれでいいのだろうか。

「と、とっつぁん、そういうことだから今回の話なかったことに…」
「しかし先鋒にはもうオッケーしちゃってんだもんなァ…」
「ハァァァァ!?」
「いや、本当に結婚すんならそのまま伝えておくからよ。ま、とりあえず食事会セッティングしちゃってるから行くだけ行って断ってくんない?せいぜい上手くやれ。ちなみに先鋒さんしつこくて有名みたいだからよぅ」

副長の額から大量の汗が吹き出している。大丈夫なのかな…?

「あ、あの…?」

部屋を出た松平長官様の背中を呆然と見つめたまま動かなくなってしまった副長の前で手を振ってみるがピクリとも動かない。ただの屍のようだ。ってそんな冗談を言っている場合でもなくて。

「副長!説明してくださいよ!」
「あ?ああ…悪いな急に。ってわけで婚約者のフリしといてくれ」
「ってなわけってどんなわけ!?」

毎日お疲れな様子の副長のために大目に見てあげようと思っていたマヨネーズの過剰摂取もこれでは許せそうにない。私はどうしてこんなにもこの人に振り回されなければならないのだろうか…。

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