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「残したら切腹ですからね」

ここの料理長、私の口癖だ。食べ物を粗末にする人が嫌い。死ぬほど嫌い。意味がわからない。もう本当…副長とか死ねばいい。

「いつもいつもそんな大量のマヨネーズぶっかけて…私に対する嫌味ですか?」
「嫌味なんか一つも言ってねェだろ。マヨはこの焼魚の味を引き立たせるために必要なものだ」
「いやいやそんなにかけたら味も何もわかんないでしょ」
「マヨの味がする」
「ほれみろ!マヨだけだろうが!私が丁寧に丁寧に焼いた魚はどうなるんですか!」
「食感は楽しめるぜ?」
「あーもう!もうやだ!ほんとやだこの人!」
「キーキーうるせェ奴だな。食事時くらい黙りやがれ」
「一体だれのせいで…あ」

不意に視線を感じて振り返ると、食堂に居た隊士全員がこちらを見ていた。またやってしまった。

「なんでィ。今日の言い合いはもうしまいですかィ?」
「沖田くん、楽しまないで。ほら君もちゃんと食べなきゃダメよ?」
「へーい」

特にこの沖田くんは毎回ニヤニヤと私と副長の言い合いを眺めている。心底楽しんでいる。ベビーフェイスなくせにその笑みからは腹黒さが滲み出ている末恐ろしい子だ。いや、すでに恐ろしいが。

(はぁ…土方スペシャルに関わるとろくなことがない…)

屯所内の食堂での夕食の時間が終わり明日の朝食に備える。メニューはローテーションなので考える労力は必要ないのだが…なんせ皆よく食べる。とりあえず質より量。ほんとこれに限る。若い男連中が毎日体を張って仕事しているのだから仕方ない。下ごしらえに時間を費やしていると、気づけば時計の針はもうすぐてっぺんをさそうとしていた。

「ナマエ、いるか?」
「副長?お疲れ様です」
「すまねェが、茶を一杯貰えねェか?」
「構いませんけど…こんな時間まで制服着てお仕事ですか?早く湯浴みなさった方がいいんじゃないですか?」
「そうしたいのは山々だが…総悟の破壊衝動が収まらない限り俺の書類はたまる一方だクソヤロー」
「苦労が絶えませんね」
「過労死しそうだ」
「まだお仕事されるんならお部屋に軽食持って行きましょうか?」
「いや、茶だけで十分だ。お前も早く帰れよ?」
「心配してくださるんですね。私は副長の方が心配ですけど」
「女の一人歩きなんていいことねェよ」

気をつけて帰れよーと、湯呑みを片手に食堂を出て行く副長の顔は、見るからに疲れ果てていて可哀想になる程だった。明日は少しくらいマヨを大目にみてあげようかな、なんて。

帰宅時間こそこんなに遅くなってしまうが、拘束時間が長いが故にお給料はいい。食事と食事の間は割と暇だし、食堂のテレビを見ながらおばちゃん達と談笑したり、非番だったり休憩中の隊士のみんなとおやつを食べたり自由にさせてもらっているのにこんなに貰って申し訳ないと思うほどの給料だ。まぁ…ここにいる限り出会いなんてものはないし、経済的にも立派に自立してしまっている為にそもそも出会いすら求めなくなっているのが現状。仕事をしてはいるがそれ以外の私生活はからっきし。今日だって急いで帰ったところで待ってくれている人なんて誰もいないし、お風呂に入ってさっと汗を流して冷蔵庫に入っているビールを一気にあおって寝るだけだ。ここで働いている限り、ずっとそんな生活が続いていくものだと思っていた。ルーティン化された毎日だったはずなのに、誰があんなことになることを想像できたであろうか。

私と副長が、あんな関係になるなんて。

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