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36

密輸船などが数多く停泊する仄暗い港に晋助の船はあるという。たまたま江戸に来ているらしい彼と顔を合わせるのはあの時以来だった。

「よォ、逢瀬には随分と色気のねェ場所だな」
「この間だって色気なんて皆無だったでしょ」
「お前が俺に会いたがってるなんざ、明日は雨か」
「天気予報はバッチリ晴れマークだった」
「そうかよ。とりあえずここじゃ危ねェ。入んな」

キセル片手に私に背を向けて船の中へと歩いて行く晋助を追う。こんな大きな船でたくさんの部下を連れて宇宙を飛び回っているだなんて、あの頃は想像もできなかった。けど…大きくなった鬼兵隊とは裏腹に晋助の背中はあの頃よりも随分と小さく寂しげに見えた。

無機質な鉄の床を歩くこと数分、晋助の私室のようなところに連れて来られた。今でも私は彼のパーソナルスペースに入ることを許されているのだろうか。

「とりあえず座れ」

上座にどっかりと座った晋助の真正面に腰を下ろす。これから何を話すかわかっているのならば、こんな穏やかな顔はしていないはずだ。

「…わざわざヅラ使って居場所割り出して何のつもりだ。ついに俺と共にくる覚悟でもしたか」
「そうじゃない、お別れを…言いに来たの」
「あ?別れだと?」
「そう。私は今後一切…何があっても、もう二度と晋助と一緒に行くことはできない。だからお別れを言いに来た」
「それを俺がハイそうですかと聞き入れると思って来たんだったらお前は随分間抜けな女だ」
「思ってない、そう思えなかったから覚悟決めて来たの」

いつの間にか距離を詰めていた晋助にそのまま押し倒され、身動きが取れないように両腕を押さえつけられた。

「俺は何もかも捨てて来たはずだった。あの時…先生が死んだ時、銀時達との繋がりも全て、いつかあいつを殺してやろうとすら思って捨てて来た。だがお前だけは捨てられなかった。いつか再び手に入れると心に決めて今まで来たんだ。それなのに…お前にそう言わせたのはあいつらなのか」

ーどうしてそんな顔をするの、なんで悲しそうなのー

「晋助、私たちの道はとっくの昔にもう交わらないくらいに離れていってしまってたんだよ」

平行線よりも遠いの、お互いが外を向いて引いた線なんて離れていくだけで二度と交わらないんだから。

「私、晋助に出会えたこと今でも感謝してる。初めてキスした相手が晋助で良かった。晋助に大人にしてもらえて良かった。本当に大好きだった、愛してた。だからちゃんと自分で終わらせたかった」
「俺とあいつらは敵同士だ。戦になれば俺はなんの躊躇もなくあいつらを殺す」
「うん。もしそうだったとしたら私はあの人たちと一緒に死のうと思う」
「お前を生かすも殺すも俺次第じゃねェのか」
「晋助は優しいから私のこと殺せないでしょ」
「ほォ…試してみるか」
「晋助がそれで満足するなら、それでもいいよ」

私がそう言うと、晋助は一瞬右目を大きく見開き私の首に両手をかけた。圧迫され苦しくて涙が出たけれど、不思議と悲しくはなかった。

「……ッ!!ハァハァハァ…ッ」
「…殺せるかよ」
「晋助…」

私の首から両手を離した晋助はそのまま私の上に倒れこんだ。

「愛した女の幸せを願うのも男の務めか」
「そうしてくれると嬉しい」
「お前は俺の幸せは考えねェのか」
「考えてたよ、ずっと。でも…女の私にはわからない、ってやつでしょう?」
「あァ、お前にゃ絶対わからねェ」
「だったらどうしようもないじゃない」
「お前はそういう女だよな。だから好きだ」
「私は好きだった、昔の晋助のこと」
「今の方が色男だろうが」
「ただの犯罪者の間違いでしょ」
「俺の隣を捨てたことを後悔しろよ」
「しないよ」
「可愛くねェ女だ」

そう言って晋助は私の横に寝転がった。そして私の目から流れた涙を優しく拭った。…そんなに愛おしそうに触れないで、

「晋助」
「…んだよ」
「私に誰かを好きになることを教えてくれたのは晋助だったよ」
「あァ」
「感謝してる」
「来世は一緒になると誓え」
「ロマンチストだなあ」
「いいから、俺に誓え」
「来世なんてわかんないよ。でも晋助が探し出してくれたら…その時は一緒にいてもいいかな」
「今の言葉忘れるんじゃねェぞ」

最後のセリフに返事はしなかった。それでも晋助は満足げに口角を上げてうっすら笑っていた。この不敵な笑みが好きだった。

それから朝まで友人のように昔話を肴に酒を酌み交わした。晋助は父との思い出を共有できる数少ない人だった。そして日が昇りはじめた頃船を降りた。もう二度と会うことはないだろう晋助が、どうか幸せになれますように。

一つの恋に終止符を打って、遠ざかる船を見送って自宅へと歩みを進めようとした時、のど元に刀を突きつけられた。

「女、高杉一派のものか」
「違います」
「あの船から出て来ただろう。高杉はどこへ行った」
「知りませんよそんなこと」
「大人しく吐いた方が身のためだ」
「知らないもんは知らないんですから吐きようがないです」
「これじゃ埒があかん…連れて行け」

はぁ、一難去ってまた一難。私は事件に巻き込まれる天才なのだろうか。車に押し込まれ目隠しをされたところでベタに薬品のようなものを嗅がされ意識が飛んだ。副長、早く会いたいです。

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