×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

35

「え〜、ちょっとした報告だが今日からナマエがしばらくの間休暇を取ることになった。理由は聞いてやるなよ、家庭の事情っつーやつだ」
「すみません、勝手します」
「有休溜まってるから消化ってことで。お前らもこの件について色々喚くんじゃねェぞ」

と、いつもの朝礼のような会議の中で副長がそう言った。俺たちにも有休消化させろ!とかナマエさんの飯が食えないなんて頑張る意味がねェ!とか思い思いに発言をしている彼らは恐らくこのあと副長から直々に鉄槌を下されるのであろう。ごめんなさい。

私が長期の休みを申請した理由は家庭の事情なんかではなく、先日副長とした約束を果たすためである。結果がどうなるかなんてわからないけれど、私と副長がこれからもう一歩先の関係になる為には清算しなければならない問題がある。こんな私的な理由にもかかわらず、局長も副長も深く理由を聞かずに了承してくれた。きっとこの人たちには私が今から何をするかなんてことはわかっているんだろう。どこまでも優しい人たちだから、何も聞かずに送り出してくれる。

「副長、ご迷惑おかけしてすみません」
「迷惑だなんて思ってねェよ」
「帰ってきたらお話ししたいことがたくさんあるんです」
「あァ、俺もだ」
「夫婦のフリするのも今日で最後です、きっと」
「…そうだな。長いこと世話になった」
「私こそ。わがまま聞いてくれてありがとうございました」
「ちゃんと帰ってこいよ」
「できることなら」

紅桜の一件があったとき、私は副長にその時がきたらちゃんと話すと、そして真選組を去ると約束をした。
きっとケリをつけてもここに戻ることはできない。わかってはいるけど、それでもこの人と隠し事なしで誠実に向き合いたいと思った。

「姐さん、俺はあの人みたいに優しくねェから単刀直入に聞きやす。何しに行くかは知りやせんが…戻ってくる気はあるんですかィ?」
「戻ってきたいとは思ってるよ。戻れるかはわからないけど」
「俺はあんたの作る飯が一番好きなんでィ、それだけは覚えててくんなせェ」
「うん。沖田くんありがとう」

戻れなくなるとわかってはいても気持ちはあとには引けないところまで来てしまっていた。少しの間だけ副長への気持ちを忘れられますようにと、屯所の門に一礼して万事屋を目指した。

「おう、珍しいな。どうした?依頼か?」
「うん。お願いがあるんだけど…」

高杉晋助に会わせてほしい。銀時の目をまっすぐに見つめてそういうと、彼の顔が凍りついたように固まった。

「お前何言ってるかわかってんの?」
「うん、わかってる」
「あいつとの関係が知れたらもう…」
「そうかも知れないけど、それでももう…あの人たちに隠し事なんてできないってそう思ったの」
「危険は承知の上ってことか」
「銀時まで巻き込んでごめんね。これじゃ少ないかも知れないんだけど…」

帯付きの束を一つ、危険の代償としては少なすぎるのかも知れないけれど、今の私にはこれが精一杯だ。

「馬鹿だな、友情割って知ってるか」
「いらないよそんな割引」
「どうしても割引受ける気がねェってんなら仕事が成功してからもってこい。お前の手から直接なら受け取ってやらァ」

こんな頑固女高杉も土方くんもどこがいいんだか、とボヤきながらも銀時は誰かに連絡を取っているようだった。

それからしばらくして万事屋を訪ねて来たのは攘夷志士、桂小太郎だ。

「ナマエ、久しぶりだな」
「髪伸びたね」
「ああ、これは俺のトレードマークだからな」
「銀時も小太郎も巻き込んでごめんなさい。晋助に会わせてほしいの」
「そこまでこだわる理由聞いてもいいか」
「副長のことが好きだから、全てを清算したい」
「随分とストレートだな」
「だが高杉に全てを理解してもらえるとは思えんぞ」
「真選組に戻れなくなるって覚悟はしてる。それでも後ろめたい思いを抱えたままでいたくないの」
「本気なんだな」

いつか救えるかもしれないと勝手に驕っていたのは私だ。何もかも中途半端にして完全に手放せなかった晋助との関係を終わらせたい。

自分勝手、そう思われても仕方がない。結局私ひとりの行動が真選組を危険に晒してしまっているのだから。

「もしね、一週間経っても私が戻って来なかったらこれを副長に渡してほしいの」
「手紙?」
「うん。お願いできるかな」
「依頼なら受け取っておく」
「お願いします、万事屋さん」

現在も攘夷志士として活動している小太郎のつてもあり、晋助の居場所は思いの外早く見つかった。

「場所は記してある通りだが、本当に行くのか」
「行くよ、小太郎ありがとね」
「気をつけるのだぞ。三日後の午前零時だ」
「うん。じゃあ、行ってきます」

心配そうに私を見る銀時と小太郎に笑顔を見せて私は万事屋をあとにした。

ねぇ晋助、私のこと許してくれる?

prev | next