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副長との買い物デートから数日、姫様の生誕記念パーティーの日がやってきた。この日の為に一部解放された城に招待客が続々と入って行く。私も人の流れに乗って城の入り口を目指していると、万事屋の一行が列に並んでいるのが見えた。

「神楽ちゃん」
「ナマエ!来たアルな!」
「銀時達も招待されたの?」
「俺らは神楽の保護者みたいなもんだから一緒にな」
「知り合いがいて良かった」
「知り合いならあちこちにいんだろ。黒い服着た税金泥棒がわんさかいたぜ」
「色んな人が出入りするから警護だって言ってたよ」
「ん?お前えらく上等な着物着てるじゃねェか」
「あ…うん、今日の為にって副長が…買ってくれたの」

先日の楽しかった買い物デートを思い出し、一人照れていると銀時は面白くなさそうに顔を歪めた。

「けっ、儲かってやがんなァ税金泥棒」
「毎日忙しそうだもの」

話をしている間に列は進み、やがて城の中へ。豪華絢爛な造りの、江戸のシンボルともいえる城はやはり私なんかが来る場所ではない遠い世界のような気がした。

会場となる広間の中央に並ぶ将軍様と姫様に近づく人には色々な思惑があるだろう。全てを疑うわけにもいかず、全てを信じるわけにもいかず、誰を信じたらいいかわからない環境で、私なら早々に根を上げてしまうだろうと思った。それでも凛々しくあり続ける将軍様や、笑顔を見せる姫様はやはり雲の上の人のような気がしてならなかった。

「神楽ちゃん!来てくれてありがとう!」
「そよちゃん!お誕生日おめでとうネ!」
「姫様、お誕生日おめでとうございます」
「ナマエさんも、来て下さってありがとうございます!とっても嬉しいです!」
「そよちゃん、プレゼント持って来たネ」
「まぁ!本当ですか?」

神楽ちゃんが今日の為にと用意したのは、一生懸命描いたふたりが並ぶ絵だった。可愛らしいプレゼントに、姫様につられ私も笑顔になる。何よりも愛がこもった素敵なプレゼントだ。

「姫様、これは私からです」
「素敵ですわ!似合います?」
「そよちゃん、とっても似合うアルよ!」

姫様の笑顔を見て、相手を思って選んだプレゼントなら喜んでもらえるはずだと助言してくれた副長に心から感謝をした。

それから暫く談笑をしていたが、次のお客様が挨拶に来た為私達は姫様に別れを告げた。神楽ちゃんは銀時たちの元へと戻り、人の多さに当てられた私は休憩がてら化粧室へ向かった。その道すがら、いかにも金持ちそうな男達が晴れやかな場に似つかわしくない程苦い顔をして話し込んでいる。盗み聞きするつもりなどなかったが、聞こえてしまえば話は別だ。

「おい見たか、さっきの娘。姫様へのプレゼントは自作の絵だとよ。俺たちが一体いくら金を積んでこの場に来ていると思っているんだ」

きっと神楽ちゃんも、私と同じように悩んで悩んで、プレゼントを用意したに違いない。そのプレゼントに姫様も喜んでくれたのに何が悪いのか。怒りの感情が込み上げ、額に青筋が浮かんだ気がした時には既に遅く、私は男性に話しかけてしまっていた。

「すみません、話が聞こえてしまいまして。先程の件、謝罪していただけませんか」
「なんですか、あなた」
「あなた達が話していた女の子、姫様の親友なんです。あんな小さい女の子が一生懸命用意したプレゼントをあなた達にとやかく言われる筋合いなんてないと思いますけど」
「よく見ればあなたもその娘のそばにおられましたな。贈り物は髪飾りひとつでしたか」
「…何か問題でも」
「私達上流階級の者に庶民の考えは分かりかねますな。よくそれで恥ずかしくないものだ」
「何を恥じれば良いのです?」
「自分の頭に聞いたらどうです。このような立派な将軍家のパーティーに一般人が紛れ込むこと自体おかしいことだ。着飾っていても滲み出る庶民感は隠せませんな」
「…私のことはなんと言われようと構いません。ですが神楽ちゃん…姫様の親友のことを悪く言わないでください」
「何故あなたにそんなことを言われなければならないのですか、大体…」
「はいはい、そこまで」

ヒートアップした私達の間に入ったのは見慣れた黒い制服で。

「これはこれは真選組の副長殿。どうしてここに?」
「なにやら不穏な雰囲気でしたので、パーティーの運営に関わる問題が起こる前にお止めしようかと。あなた方が姫様へのお祝いではなく、将軍様へのコネを作るためにこの場に来られたことは聞かせて頂きました。今すぐお伝えしてつまみ出して頂くことも可能ですがどうしましょう」
「…冗談が過ぎますなァ、副長殿」
「まァ、そんなこたァ正直どうでもいい。俺の女侮辱した罪は重いぜ、おっさんよォ」

ギリっと射抜くような視線で、男性二人を睨みつけた副長。視線に耐えられなかったのか男性らは逃げるようにその場を去っていった。

「お前は行く先々で問題起こしやがって…せっかくの楽しい場だろ」
「…ごめんなさい」
「ま、悔しかったんだよな」

何も言わずに気持ちをわかってくれるのは、何を贈るか迷っていたのを知っているからだろう。私だって同じように神楽ちゃんの気持ちがわかるから、どうしても、

ーーポン

「せっかく綺麗な着物着てるんだ。仏頂面じゃ勿体ねェよ。似合ってる」

頭にポンと手を置いて、俯いていた私と視線を合わせるように少し屈んで優しく笑いながらそんなことを言う副長のせいで涙が一筋溢れた。

「悔しかったんです。すみません。…でもちょっと嬉しいこともあったから…プラマイゼロです」
「はは、なんだよそれ。しっかしお前の負けん気の強さはどうにかならんもんかねェ」
「あなたの嫁ですからね、それくらいないと。ねえ、副長…パーティー終わったら一緒に飲みに行ってくれませんか」
「急だな」
「せっかく綺麗な着物着てるから、脱ぐの勿体ないし」
「ま…そうだな。何も起こらずにパーティーが終わったらな。問題起こさねェように万事屋監視しとけよ」
「頑張ります」

“俺の女侮辱した罪は重いぜ”と副長の言葉が頭の中でこだまする。場を収めるための発言だったとしても、副長にとって深い意味がなかったとしても、全くの他人の前で俺の女と言ってくれたことがどうしようもなく嬉しくて、暫く顔の火照りが取れなかったのは仕方のないことだろう。

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