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29

夜中、何度も衝撃で目が覚めた。
目を開けてすぐに映る天井がいつもと違い一瞬思考が停止するが、万事屋に泊まりに来ていることを思い出す。衝撃の原因となっているであろう神楽ちゃんの足を自分のお腹の上からそっと下ろす作業を四、五回繰り返した。いくらなんでも寝相が悪過ぎやしないか…?川の字で眠りたいと言う神楽ちゃんの要望を聞き入れ、銀時、神楽ちゃん、私と並んで眠っていたのだが、神楽ちゃんの足が乗るのは私のお腹ばかりのようで銀時は気持ちよさそうに眠っている。

さすがにこう何度も起こされると、いくら明日が休みだといえどつらいものがある。神楽ちゃんには悪いけど…と思いながらこっそり銀時の隣へ布団を移動した。

「ん…どうした?」
「神楽ちゃんの寝相悪くて、ちょっと」
「はは、そりゃたまんねェよな」

人の気配に敏感なのであろう銀時の眠りを妨げてしまったことに少しだけ申し訳なさを感じながら私も再び目を閉じた。それからは目が覚めるような衝撃はやってこず、新八くんが万事屋にやってくるまでゆっくり眠ることができた。

「おはようございますナマエさん」
「ふぁ…新八くん…おはよう」
「朝ごはんできてますよ」
「ありがとう」

自分以外の人が作った朝ごはんを食べるなんて何年ぶりだろうか。テーブルに並べられたご飯とお味噌汁と目玉焼きと納豆。シンプルなものだけどとても美味しそうで思わず頬がゆるむ。

「ごめんね、私が作ればよかったのに」
「いいんですよたまには。お客さんなんですからゆっくりしていってください」
「お昼は私が作るね」
「たのしみです」

テーブルに並んでいるのは四人分の朝食だが、銀時と神楽ちゃんが起きてくる気配はなく、いつものことだと言いつつ新八くんは少々苛立っているようだった。私も少しくらいお手伝いしなきゃなと思い、彼らを起こしてくる役を買って出た。新八くんはその間に洗濯物を干してくるのでと言って脱衣所に向かった。なんて良くできた従業員なのだろう…しかしこれでは従業員というよりはまるで家政婦だなと、新八くんの日頃の苦労を考えると彼に向かって手を合わせたくなった。

「銀時、おはよう」
「んん…もう朝?まだ良くね?」
「新八くんが朝ごはん作ってくれてるから」
「ん〜まだ起きたくねェ…」

いい歳こいて駄々をこねるなと思いつつ、先日助けてもらった恩があることを思い出し、出来るだけ優しい声をかけ続けた。起きて、起きたくないと暫く押し問答を続けていると銀時は強行手段に出た。無理矢理私の手を引き、布団の中に引きずり込んだのである。

「お前も寝ろよ」
「だって朝ごはん…」
「たまにゃ朝寝坊したってバチは当たらねェよ」

そうだなぁ…今日休みだしなぁ…とほどよく温かい銀時の布団の中で頭が正常に回らなくなるのを感じていると、スパンと襖が開け放たれ、鬼の形相をした新八くんが立っていた。

「銀さん、早く起きてください」
「せっかくの大人の楽しみ邪魔してんじゃねェよ」
「ナマエさんも、そんな人に流されてたらお嫁にいけなくなりますよ」
「は、はい。すみません」

二度寝の誘惑に負けてしまいそうになった自分を恨めしく思いつつ、銀時とともに何とか布団から這い出た。名残惜しいことこの上ないが致し方あるまい…。

「神楽ちゃん、起きて。朝ごはんよ」
「マミー…?」
「ふふ、寝癖ついてる。一緒になおしにいこう」
「マミーじゃなかったネ…ナマエ、おはよう」

ゴシゴシと乱暴に目元をこする神楽ちゃん。まだまだ寝ぼけ眼だがギリギリ意識を保っているようなので急いで洗面所に連れて行った。寝癖のついた髪を濡らし、ブラシで整えてあげると鏡越しではあるがニッコリと可愛らしい笑顔をした神楽ちゃんと目があった。

「やっぱりマミーみたいネ。嬉しいアル」
「私も楽しいよ。神楽ちゃんは子供というより妹に近い感覚だけど」
「じゃあナマエはお姉ちゃんアル」
「こんな可愛らしい妹なら大歓迎だよ」

身支度を整えた神楽ちゃんともに銀時と新八くんの元へと向かう。銀時の隣に私、新八くんの隣に神楽ちゃんが腰掛けた。万事屋の朝食の時間は真選組とは違うけれど賑やかであたたかな空間だった。

朝ごはんを食べて食後のお茶を飲みながらテレビを見ながらのんびり。途中でお布団を干したり掃除を始めた新八くんを手伝ったりしているとあっという間に昼になった。荷物持ちのために銀時を連れてスーパーに向かい昼ごはんの材料を調達する。

「デザートも買ってくんね?」
「プリン作ってあげようか」
「マジで!?生クリームは!?」
「仕方ないなぁ〜…トッピングしてあげる」
「女神かよ…もうナマエちゃん愛してる」

軽口を叩きながら万事屋に戻り台所へ。
手伝いたいと言ってくれた神楽ちゃんに出来上がりを楽しみにしててほしいことを告げると、それまで定春の散歩してくるといって万事屋を出ていった。

サラダに汁物、鳥の唐揚げに、オムライス、そしてデザートのプリン。手際よく仕上げてテーブルに並べるとタイミングよく神楽ちゃんが帰ってきた。

「すっげーいい匂いするアル!」
「早く手洗っておいで」

それぞれのオムライスに愛を込めてケチャップで名前を書いてあげると、みんなニコニコと嬉しそうだった。こんなに喜んでくれるなら作りがいがある。屯所でもやってみようかな…。

「ふ〜〜美味しかったアル…ナマエ、銀ちゃんに嫁いだらどうアル?」
「それには俺も賛成だ」
「僕は反対ですね、ご飯は嬉しいですけど。銀さんの奥さんは苦労しますよ」
「そうだね、銀時の奥さんは苦労しそう」
「絶対幸せだよ俺が」
「私じゃないじゃん」
「あ、そうだ!デザートは?」
「ちょっと待っててね」

冷蔵庫からプリンの型を取り出し、お皿に盛って銀時の要望どおりに生クリームをトッピングする。

「はい、みんなどうぞ」
「「うぉ〜〜っっ」」
「ナマエさん、すみませんこんなにたくさん…」
「お礼だから気にしないで」

子どものようにプリンに目を輝かせている銀時のおかげで副長は真選組に戻ってきてくれた。こんなものでチャラにできるわけない、お礼にしてはあまりにも安いものだった。

それから夕方までダラダラ過ごしたのち、暗くなる前にということで銀時から送ってもらうことになった。

「今日はありがとな、わざわざ時間作ってくれて」
「何言ってんの、こんなの私がしたくてしただけだし…こんなものでお礼なんて」
「いいんだよ、そもそも礼なんて」

何事もなかったかのように頭の後ろで腕を組んで沈みかけた夕日を遠い目で見つめる銀時の横顔を盗み見る。

何を考えているのか、よくわからない。
昔からそうだった。何も考えてないように見えて、人一倍まわりに気を遣う。その深すぎる懐に今まで何人の人を抱えて救ってきたのだろうか。

「銀時」
「ん〜?」
「なんかあったら、私のこと頼ってね」
「まァた礼がどうとか言ってんの?お前もしつこいね」
「ううん、そうじゃなくて、銀時の友達として」
「あっそ。そういうことなら受け取っておくよ」
「そうして、家計がピンチの時にはご飯作りに行ってあげるし、神楽ちゃんが望んでくれるならまたお泊まりにも行きたい」
「そりゃ喜ぶぜ、あいつ。まァ…言っちまうとしょっちゅう呼ばれると思うけど」

はは、と短く笑った銀時の横顔は夕日に照らされて、普段感じる哀愁みたいなものがより濃く感じられた。

いつか、この人がかつての友と昔みたいにバカを言い合える日が来ればいいのにな。と、しばらく来そうにもない遠い未来を想像した。

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